Love in Crisis

◆第8話 「陰に潜む企みと、次なる試練」

外の光に包まれた瞬間、莉子は息を整える。
深く吸い込む空気は、まだ緊張で張り詰めた胸を少しだけ和らげる。

「……生きてるね、奏叶」
莉子は小さく微笑みながら、奏叶の手を握り返す。

奏叶も微笑む。
「俺もだ。莉子……怖かったけど、無事でよかった」
その言葉に、莉子の胸は温かく満たされる。

だが、安堵の時間は長く続かない。
遠くで、低く冷たい声が響く。

「……まだ、終わってはいない」

振り返ると、建物の影に黒い影が一つ。
あの獣医だった。
手にはスマホと、何か小型の装置を握っている。

「君たち……無事そうだね」
低く、笑みを浮かべる。
その表情には油断のかけらもなく、冷たく計算された危険が漂っていた。

「何のつもり?」
奏叶が問いかける。
獣医はゆっくりと歩み寄り、冷たい視線を二人に向ける。

「君たちには“まだ次の試練”がある」
手に握った装置をチラリと見せる。
「このまま無事に逃げられると思ったか?」

莉子の胸が再び締め付けられる。
「奏叶……また……危ないの?」

奏叶は莉子の手をぎゅっと握り、強く頷く。
「心配するな。俺が必ず……!」

二人の背後で、佳奈が呆然と立ち尽くす。
「くそ……二人とも……!」
嫉妬と怒りが混ざった声を、莉子は冷たい視線で受け止める。

——だが、もう恐怖だけでは立ち止まらない。
二人は互いを信じ、互いを守る覚悟を持っている。

「莉子……行くぞ」
奏叶が小さく囁く。
「うん……一緒に」
莉子も応える。

二人は慎重に影を避け、建物の裏手へと回る。
足音一つ、物音一つが、まだ彼らを狙う影に伝わるかもしれない。

「……逃げ切れるかな……」
莉子が小声で呟くと、奏叶が笑う。
「大丈夫だ。俺たちは生き延びる。絶対に」

その言葉に、莉子は胸が熱くなる。
——奏叶を守る。
——絶対に二人で生き延びる。

遠くで、獣医が低く笑う。
「ふふ……面白くなってきた」

だが、二人の絆は、その不吉な影を越えていた。
互いの手を握りしめ、互いの鼓動を確かめながら、次の試練に向かう二人——

まだ見ぬ危険はあっても、
命をかけた信頼と愛が、彼らの前に道を作る。



< 12 / 15 >

この作品をシェア

pagetop