Love in Crisis

◆最終話 「最後の試練と、ふたりの未来」

薄暗い廃工場の中。
二人の足音だけが反響する。
ここが、獣医の本拠地——最後の試練の舞台だった。

「ここで……終わらせる」
奏叶の声は低く、しかし決意に満ちていた。
莉子はうなずき、彼の手をしっかり握る。
「ええ……二人で」

遠くで、獣医の笑い声が響く。
「よくここまで来たね……でも、ここから先は簡単にはいかない」

壁が突然動き、光と影が入り混じった迷路のような空間が現れる。
罠があちこちに仕掛けられている。
二人は互いに目を合わせ、息を合わせて動き出した。

「莉子、俺の合図で動く」
「わかった」

手を握り、互いの呼吸を感じながら進む。
足元の床が揺れ、壁から鋭い針が飛び出す。
だが奏叶が莉子を抱えて飛び越え、二人で安全な場所に着地する。

「……危なかった」
莉子は息を整えながら、奏叶を見上げる。
「でも……奏叶と一緒だから、怖くなかった」

奏叶も微笑む。
「俺もだ、莉子。絶対に守る」

その瞬間、獣医が高台から現れ、手に小型の装置を掲げる。
「君たちの“絆”はここで試される。片方でも崩れたら終わりだ」

莉子はぎゅっと奏叶の手を握り返す。
「奏叶……一緒に」
「ああ、莉子」

二人は互いの動きを完全に合わせ、獣医の仕掛ける罠を突破する。
火花が散り、金属音が響き、息をつく暇もない。
だが、二人の心は一つ。互いを信じ、互いを守る。

最後の障害——獣医の装置が発動する瞬間、奏叶は莉子を庇いながらカッターナイフで装置を破壊。
「これで……終わりだ!」

装置は粉々になり、廃工場に静寂が戻る。
獣医は悔しそうに舌打ちをするが、もう二人の前には立てない。

莉子は息を切らしながらも、奏叶に駆け寄る。
「奏叶……無事でよかった……!」
二人は抱き合い、長く互いの温もりを確かめた。

「莉子……俺……やっと言える」
「なに?」
「ずっと、ずっと……好きだった」

莉子の頬に涙が伝う。
「奏叶……私も……ずっと、あなたを……」

その瞬間、二人の間に暖かな光が差し込むような感覚があった。
危険の連続の中で確かめ合った絆——
それは生涯消えない信頼と愛だった。

二人は手を握り合い、外の光に向かって歩き出す。
過去の恐怖も、怒りも、嫉妬も——
すべてを乗り越え、二人の未来は二人で作るもの。

「……もう、怖くないね」
「うん。莉子がいれば、俺は大丈夫」
「奏叶がいるから、私も大丈夫」

互いの手を握りしめたまま、二人は廃工場の外へと歩を進めた。
そこに待つのは、まだ見ぬ日常——
でも、もう二人は決して一人じゃない。

——終わりじゃない、これからも二人で歩む未来の始まり。

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