Love in Crisis
◆第2話 ── 見知らぬ部屋、懐かしい声
「……おい。聞こえてるか?」
低く、冷たい声が、朦朧とした意識の端を揺らした。
莉子がゆっくり目を開けると、そこは薄暗いコンクリートの部屋。
壁はむき出しで、家具は一つもない。
「……え?」
体を動かそうとした瞬間、背中に冷たい金属の感触。
腕と足はロープできつく縛られていた。
(なに…ここ……どうして私……)
恐怖が喉を絞めた。
「起きたか?」
その声に顔を向ける。
部屋の隅、パイプ椅子に座る一人の少年。
黒髪で、切れ長の目。
冷たさの奥に、どこか寂しさを感じさせる表情。
誰が見ても“イケメン”と呼ぶだろう雰囲気。
彼も腕を縛られていたが、指先を器用に動かし、ロープを緩めている。
数秒後。
パサッ…と、彼の手が自由になった。
「大丈夫か?」
彼はそう言いながら、周囲を警戒するように視線を走らせ、莉子のもとへ歩み寄った。
手には、小さなカッターナイフ。
「っ……!」
「怖がらなくていい。これは護身用だ。――ほら、縛りを切るのに使う」
少年は自分の手首に残る赤い痕を見せる。
確かに、縛られていた形跡がある。
莉子はまだ震えが止まらなかったが、縛りから解放されたくて、身を任せるしかなかった。
「動かないで。すぐ終わる」
彼の指がロープに触れる。
鋭い刃が、縛り目を静かに切り裂いた。
――彼の声。
――落ち着いた仕草。
――どこかで、聞いたことがある。
(誰…? この感じ……)
思い出せそうで、思い出せない。
当然だ。
彼こそが、幼いころ近所の公園でいつも莉子と遊んでいた少年――
七海奏叶(ななみ かなと)
莉子の初恋の相手だからだ。
だが今の莉子はまだ気づいていない。
「行くぞ」
「え…?」
「ここに長居したら危ない」
奏叶は扉の前に立ち、慎重にノブを回した。
ギィィ……と音を立てて扉が開く。
廊下には誰の気配もない。
ただ、足元に落ちているスマホと、封筒が一つだけ。
嫌な予感がした。
奏叶が封筒を拾い、紙を広げる。
――『脱出したければ、このスマホに届く指示に従え。』
「はぁ……めんどくさいことになってるな」
奏叶は眉をわずかにひそめた。
「で、でも…従うしかないよね……?」
「そうだな。生きて出るには、それしかない」
スマホの画面が急に点灯した。
“ミッション① 開始”
莉子は息をのむ。
奏叶は深くため息をつきながらも、莉子の方へ手を差し伸べた。
「行くぞ。離れるなよ」
莉子は怖さを噛みしめながら、その手をそっと取った。
背後で扉が静かに閉まる。
二人の脱出劇は、こうして始まった。
低く、冷たい声が、朦朧とした意識の端を揺らした。
莉子がゆっくり目を開けると、そこは薄暗いコンクリートの部屋。
壁はむき出しで、家具は一つもない。
「……え?」
体を動かそうとした瞬間、背中に冷たい金属の感触。
腕と足はロープできつく縛られていた。
(なに…ここ……どうして私……)
恐怖が喉を絞めた。
「起きたか?」
その声に顔を向ける。
部屋の隅、パイプ椅子に座る一人の少年。
黒髪で、切れ長の目。
冷たさの奥に、どこか寂しさを感じさせる表情。
誰が見ても“イケメン”と呼ぶだろう雰囲気。
彼も腕を縛られていたが、指先を器用に動かし、ロープを緩めている。
数秒後。
パサッ…と、彼の手が自由になった。
「大丈夫か?」
彼はそう言いながら、周囲を警戒するように視線を走らせ、莉子のもとへ歩み寄った。
手には、小さなカッターナイフ。
「っ……!」
「怖がらなくていい。これは護身用だ。――ほら、縛りを切るのに使う」
少年は自分の手首に残る赤い痕を見せる。
確かに、縛られていた形跡がある。
莉子はまだ震えが止まらなかったが、縛りから解放されたくて、身を任せるしかなかった。
「動かないで。すぐ終わる」
彼の指がロープに触れる。
鋭い刃が、縛り目を静かに切り裂いた。
――彼の声。
――落ち着いた仕草。
――どこかで、聞いたことがある。
(誰…? この感じ……)
思い出せそうで、思い出せない。
当然だ。
彼こそが、幼いころ近所の公園でいつも莉子と遊んでいた少年――
七海奏叶(ななみ かなと)
莉子の初恋の相手だからだ。
だが今の莉子はまだ気づいていない。
「行くぞ」
「え…?」
「ここに長居したら危ない」
奏叶は扉の前に立ち、慎重にノブを回した。
ギィィ……と音を立てて扉が開く。
廊下には誰の気配もない。
ただ、足元に落ちているスマホと、封筒が一つだけ。
嫌な予感がした。
奏叶が封筒を拾い、紙を広げる。
――『脱出したければ、このスマホに届く指示に従え。』
「はぁ……めんどくさいことになってるな」
奏叶は眉をわずかにひそめた。
「で、でも…従うしかないよね……?」
「そうだな。生きて出るには、それしかない」
スマホの画面が急に点灯した。
“ミッション① 開始”
莉子は息をのむ。
奏叶は深くため息をつきながらも、莉子の方へ手を差し伸べた。
「行くぞ。離れるなよ」
莉子は怖さを噛みしめながら、その手をそっと取った。
背後で扉が静かに閉まる。
二人の脱出劇は、こうして始まった。