Love in Crisis
◆第4話 「真実の影」
ロッカーから見つかった幼少期の写真を握りしめたまま、
莉子はその場に立ち尽くしていた。
薄暗い廊下の空気がひどく重い。
胸がぎゅっとしめつけられる。
——どうして私は覚えていないの?
そんな思いがぐるぐると渦を巻き、
頭の奥がじんじんと痛んだ。
「莉子、大丈夫か?」
奏叶がそっと肩に触れる。
その手は優しいのに、どこか迷いの震えがあった。
写真に映る二人は、幼いのにとても仲がよさそうで。
莉子は胸の奥がひどくざわついた。
「私たち……昔、知り合いだったの……?」
頬が少しだけ震えていた。
奏叶は一瞬だけ目を伏せ、それからゆっくり顔を上げた。
「……あぁ。知り合いっていうか……」
そこで言葉が途切れる。
まるで、言いたいのに言えない。
喉の奥が塞がれているような態度。
莉子は不安がじわりと広がった。
「奏叶……?」
と、そのときだった。
——ピンッ。
再びスマホの通知音。
画面には一文だけ。
『ミッション達成。次へ進め』
その直後、廊下の奥の鉄の扉がゆっくりと開いた。
ギィィ……
油の切れた金属音が、骨にひびくように気味悪い。
奏叶が莉子の手を自然に握る。
莉子は拒まなかった。むしろ、それが救いだった。
「行こう。何があっても俺が守る」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、じん、と音を立てた。
懐かしい。
そう思ってしまった自分に、
莉子は戸惑いを隠せなかった。
⸻
◆鉄の扉の向こう
扉の先には、薄暗い広いホールがあった。
壁には謎のモニターがいくつも並び、
そのうちひとつが突然光った。
そして、見覚えのある顔が映る。
——あの獣医。
莉子の誘拐に関わっている男。
どこか狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ミッション達成おめでとう。記憶の欠片は見つかったかな、莉子ちゃん」
ゾクリと背筋が震える。
奏叶が前に立ち、莉子をかばう。
「……何が目的だ」
「目的? もちろん、“完成”だよ」
獣医は笑った。
「莉子ちゃんの記憶。そして君たち二人の関係。それが全部そろって初めて、次のステージへ進める。まだ途中段階なんだよ」
「ふざけるな……!」
奏叶が怒鳴るが、
獣医はその声を楽しむように笑う。
そして——
「君、奏叶くん」
獣医が名前を呼んだ瞬間、
奏叶の肩がぴくりと震えた。
莉子はそれを見逃さなかった。
(……奏叶、何? どうしてそんな反応……)
また、あの微妙な違和感が胸に宿る。
獣医は続けた。
「莉子ちゃんにはまだ見せていないけど……
君にはもう、“説明済み”だったね?」
奏叶の呼吸が一瞬止まる。
莉子「……説明済みって、何の話?」
奏叶「……莉子、これは……」
だが奏叶が言いかけた瞬間、
モニターに警告音が鳴り響いた。
ピピッ ピピッ
画面に赤い文字が点滅する。
『奏叶・首後部デバイス作動チェック』
莉子「……デバイス?」
獣医はこともなげに言った。
「首の後ろについてる爆弾だよ」
莉子「え……っ?」
息が止まった。
世界がぐにゃりと歪む。
何を言われたのかわからない。
獣医は続ける。
「安心していい。
ただの爆弾じゃない。解除方法も“君たちにしかできない”」
莉子「やめて……! どういうこと……!?」
奏叶は莉子の腕をつかんで言った。
「莉子、落ち着け……! 俺は大丈夫だから」
「大丈夫なわけないでしょ……! 爆弾なんて……!」
莉子の目が潤んで震えた。
胸に込み上げる恐怖に、足まで震えそうだった。
奏叶はそんな莉子の手を、ぎゅっと握り返した。
まるで、
“思い出してほしくないことを守るように”。
獣医は楽しげに言った。
「解除方法は簡単だよ。
お互いが“本当に思い合っている”状態で——」
そして、ひと呼吸置いて笑った。
「2回キスをすること。
それだけで爆弾は消える」
莉子「……っ」
頭が真っ白になった。
そんな馬鹿みたいな話——
でも、この男が言う“ゲーム”はいつも異常で、
そして本当に実行されてきた。
莉子の心臓がドクドクと跳ねる。
獣医の声がホールに響いた。
「さあ、先へ進みたければ——
『本心』を示すんだよ」
モニターが暗転する。
静寂が落ちた。
莉子は震える声で奏叶を見る。
「奏叶……本当に……爆弾、ついてるの……?」
奏叶は一度だけ目を伏せ、それからゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、決意と苦しさが入り混じった色だった。
「……ああ。
これは……“俺が莉子を守るために”、俺だけが知らされてたことだ」
莉子の胸が痛んだ。
「どうして……そんなの……一人で抱えて……」
「ごめん。でも……俺は莉子を失いたくなかった」
その言葉で、莉子の呼吸が止まった。
胸が熱く、痛く、苦しい。
何かが動き出しそうで、
でもまだ蓋が閉じられたまま。
奏叶はそっと、莉子の頬に触れた。
「莉子……落ち着いて聞いてほしい。
俺は、あのとき——」
言いかけたその瞬間。
——暗闇がホールを包んだ。
照明が落ち、視界が真っ黒になる。
莉子「奏叶!!」
奏叶「離れるな!」
二人が手をつないだ瞬間、
床がガコンと揺れ——
二人の足元の床が落ちた。
深い闇の中へと、
二人の体が吸い込まれていった。
莉子はその場に立ち尽くしていた。
薄暗い廊下の空気がひどく重い。
胸がぎゅっとしめつけられる。
——どうして私は覚えていないの?
そんな思いがぐるぐると渦を巻き、
頭の奥がじんじんと痛んだ。
「莉子、大丈夫か?」
奏叶がそっと肩に触れる。
その手は優しいのに、どこか迷いの震えがあった。
写真に映る二人は、幼いのにとても仲がよさそうで。
莉子は胸の奥がひどくざわついた。
「私たち……昔、知り合いだったの……?」
頬が少しだけ震えていた。
奏叶は一瞬だけ目を伏せ、それからゆっくり顔を上げた。
「……あぁ。知り合いっていうか……」
そこで言葉が途切れる。
まるで、言いたいのに言えない。
喉の奥が塞がれているような態度。
莉子は不安がじわりと広がった。
「奏叶……?」
と、そのときだった。
——ピンッ。
再びスマホの通知音。
画面には一文だけ。
『ミッション達成。次へ進め』
その直後、廊下の奥の鉄の扉がゆっくりと開いた。
ギィィ……
油の切れた金属音が、骨にひびくように気味悪い。
奏叶が莉子の手を自然に握る。
莉子は拒まなかった。むしろ、それが救いだった。
「行こう。何があっても俺が守る」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、じん、と音を立てた。
懐かしい。
そう思ってしまった自分に、
莉子は戸惑いを隠せなかった。
⸻
◆鉄の扉の向こう
扉の先には、薄暗い広いホールがあった。
壁には謎のモニターがいくつも並び、
そのうちひとつが突然光った。
そして、見覚えのある顔が映る。
——あの獣医。
莉子の誘拐に関わっている男。
どこか狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ミッション達成おめでとう。記憶の欠片は見つかったかな、莉子ちゃん」
ゾクリと背筋が震える。
奏叶が前に立ち、莉子をかばう。
「……何が目的だ」
「目的? もちろん、“完成”だよ」
獣医は笑った。
「莉子ちゃんの記憶。そして君たち二人の関係。それが全部そろって初めて、次のステージへ進める。まだ途中段階なんだよ」
「ふざけるな……!」
奏叶が怒鳴るが、
獣医はその声を楽しむように笑う。
そして——
「君、奏叶くん」
獣医が名前を呼んだ瞬間、
奏叶の肩がぴくりと震えた。
莉子はそれを見逃さなかった。
(……奏叶、何? どうしてそんな反応……)
また、あの微妙な違和感が胸に宿る。
獣医は続けた。
「莉子ちゃんにはまだ見せていないけど……
君にはもう、“説明済み”だったね?」
奏叶の呼吸が一瞬止まる。
莉子「……説明済みって、何の話?」
奏叶「……莉子、これは……」
だが奏叶が言いかけた瞬間、
モニターに警告音が鳴り響いた。
ピピッ ピピッ
画面に赤い文字が点滅する。
『奏叶・首後部デバイス作動チェック』
莉子「……デバイス?」
獣医はこともなげに言った。
「首の後ろについてる爆弾だよ」
莉子「え……っ?」
息が止まった。
世界がぐにゃりと歪む。
何を言われたのかわからない。
獣医は続ける。
「安心していい。
ただの爆弾じゃない。解除方法も“君たちにしかできない”」
莉子「やめて……! どういうこと……!?」
奏叶は莉子の腕をつかんで言った。
「莉子、落ち着け……! 俺は大丈夫だから」
「大丈夫なわけないでしょ……! 爆弾なんて……!」
莉子の目が潤んで震えた。
胸に込み上げる恐怖に、足まで震えそうだった。
奏叶はそんな莉子の手を、ぎゅっと握り返した。
まるで、
“思い出してほしくないことを守るように”。
獣医は楽しげに言った。
「解除方法は簡単だよ。
お互いが“本当に思い合っている”状態で——」
そして、ひと呼吸置いて笑った。
「2回キスをすること。
それだけで爆弾は消える」
莉子「……っ」
頭が真っ白になった。
そんな馬鹿みたいな話——
でも、この男が言う“ゲーム”はいつも異常で、
そして本当に実行されてきた。
莉子の心臓がドクドクと跳ねる。
獣医の声がホールに響いた。
「さあ、先へ進みたければ——
『本心』を示すんだよ」
モニターが暗転する。
静寂が落ちた。
莉子は震える声で奏叶を見る。
「奏叶……本当に……爆弾、ついてるの……?」
奏叶は一度だけ目を伏せ、それからゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、決意と苦しさが入り混じった色だった。
「……ああ。
これは……“俺が莉子を守るために”、俺だけが知らされてたことだ」
莉子の胸が痛んだ。
「どうして……そんなの……一人で抱えて……」
「ごめん。でも……俺は莉子を失いたくなかった」
その言葉で、莉子の呼吸が止まった。
胸が熱く、痛く、苦しい。
何かが動き出しそうで、
でもまだ蓋が閉じられたまま。
奏叶はそっと、莉子の頬に触れた。
「莉子……落ち着いて聞いてほしい。
俺は、あのとき——」
言いかけたその瞬間。
——暗闇がホールを包んだ。
照明が落ち、視界が真っ黒になる。
莉子「奏叶!!」
奏叶「離れるな!」
二人が手をつないだ瞬間、
床がガコンと揺れ——
二人の足元の床が落ちた。
深い闇の中へと、
二人の体が吸い込まれていった。