【Web版】天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~
六章
【六章】
志季子は帰宅したはずなのに、いつまでも家のセキュリティに帰宅の通知が来ない。
俺は休憩室で夜食のサンドイッチを口に突っ込みながらスマホを見つめ眉を寄せる。
一応電話はしたけれど、虚しく呼び出し音が鳴るだけだった。
睨みつけていると着信音が鳴る。
「志季子」
通話に出ると、いつもの雰囲気の彼女だった。
なのに、急に慌てだし、遠くに聞こえたのは鴻上が志季子を呼ぶ声だった。
「志季子! 志季子⁉」
俺はスマホに向かって必死で彼女を呼ぶ。
「先生、どうされたんですか?」
同僚が俺の顔を見て目を丸くする。
「志季子が」
そう言った瞬間、スマホが何かに激しくぶつかる音がした。
心臓のあるあたりが氷のように冷える。ドッと全身から汗が噴き出た。
冷静さのかけらもなかった。
人々の悲鳴や「大丈夫ですか!」という声が俺から冷静さをさらに奪っていく。
スマホをスピーカーにして彼女の名前を呼ぶうちに、サイレンがいくつも聞こえてきて、なにか起きていることだけがわかった。
俺が必死に呼びかける通話に出たのは、聞いたことのない男の声だった。
『こちら救急隊の者です。このスマートフォンの持ち主の女性のお知合いですか?』
「志季子は」
声が掠れた。救急隊?
俺の横でスマホを覗き込んでいる同僚も息を吞んでいた。
「歩道橋の階段から落ちて、意識のない状態です」
手から力が抜けそうになる。
「今から搬送します。搬送先は――」
それを聞いた途端、俺はグッと拳を握った。同僚も休憩室を飛び出す。
志季子の搬送先は、ここだ。
いまから志季子が運ばれてくる。――必ず、助ける。