【Web版】天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~
第一章

【第一章】

「よくテレビとかで“免疫力を上げる”とか言うでしょう? でもそんな医学用語はないって知ってました?」

 都内にある私立総合病院、内科の診察室で、パソコン前のドクターチェアに座った白衣にスクラブ姿の私はゆったりと微笑み、こころなし大きな声ではっきりと喋る。なにしろ、相手はお年寄りだ。

「そうなの?」

 今年で八十三歳になる患者、横尾さんはきょとんと眼を瞠る。

「ええ。まあ、わかりやすく説明するときに使ったりはしますけれど」

 さきほど、彼女にこう聞かれたのだ。免疫力を上げるにはどうしたらいいの、先生……と。この質問が来るということは、言葉を変えるとこういう表現になる。

「要は横尾さん、感染予防したいわけですよね」
「え? ああ、そう、そうね。なにしろもう、入院なんかしたくないのよ」

 横尾さんは風邪をこじらせ、数日間入院。
 先週退院したが、しばらく診察に通ってもらうことになっていた。

「ならよくよく睡眠をとって、人混みにはしばらく行かないでください。建物に入るときは、しっかりマスクもして、三食よく食べて」
「当たり前のことじゃない」
「当たり前を続けるのが一番大切なんですよ」
「結構難しいのよね」

 横尾さんにはその後もいくつかアドバイスをしたあとで診察を終える。順調に回復していてなによりだ。
 次の患者は、私の専門でもある自己免疫疾患の患者だ。
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