【Web版】天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~
四章

【四章】

 我慢はよくない、と俺は思いながら目の前の男に向かって書類をぶちまける。
 男、池崎は細面を真っ青にしていた。元が白いから、顔色が変わるとよくわかった。

「なあ、ほんっと俺よく我慢したよな?」

 白衣にスクラブ姿の俺は腕を組み、内科医局でぶるぶると唇を震わせる池崎を見下ろした。

 こいつが震えているのは怒りのせいか、恐怖なのか、はたまた他の感情なのかまでは分からない。他のやつの感情なんざ、どうでもいい。
 医局全体の視線がこちらを向いている。

「本当は、来月の理事会まで我慢してやるつもりだったんだよ。そのほうがお前の派閥ごと根絶しやすいかと思って――でも話が変わった。お前は志季子に手を出した。万死だ、ンなもん」

 俺は口角を上げ、半目で池崎を睨む。

「どうだよ、全部お前の不正の証拠だよ」

 研究のデータ不正から始まり、背任、着服、製薬会社からの袖の下、エトセトラ、エトセトラ。池崎は震えながら書類を見下ろし、掴み、ぐちゃぐちゃに丸めて俺を睨み上げた。

「覚えていろよ、このままじゃ終わらせない」
「やってみろよ藪野郎。てめえに人は救えない」

 池崎はポカンとした。俺は笑う。
 何のために医者になったの、お前?



 池崎の不正を全員の前で晒したのには訳があった。
 あんな下賤なプライドの塊みたいなやつは、人前で恥をかかせるに限るからだ。
 予想通り、さっさと退職を決めたらしい。責任感のないやつめ。

 その話を自宅で夕食を食べながら――最近は志季子と一緒に作ることが増えた――説明すると、志季子は呆れた顔をした。三月のはじめ、庭の梅は見ごろを迎えていた。

「いま、宗司さんすっごく悪い顔をしていました」
「悪い男はかっこいいだろ? ま、これで少しは症状も落ち着くかな」
「どういうことです?」
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