ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~

《5》不自然な声と唇

 創立記念日がその日だからと言われてしまえばそれまでだけれど、週半ばの木曜に宴席へ出席するのは思った以上に堪えた。

 翌日、金曜。
 首筋の痕を隠すべく、私はスカーフを使った。前日に合わせてもらった深い赤色のものではなく、元々持っていたものを。

 これ見よがしに昨日のスカーフを着けていく度胸はないし、そこまで太い神経をしているわけでもない。それに、自前のものはたまに着けていたから、不自然ではないと思う。
 明日以降どうするかはまだ考えていない。そもそも、こういう痕はどのくらいで消えるのか。この季節にタートルネックの服を着るのはつらいし、なにか対応策を練っておかなければならない。

「おはようございます」
「おはようございまーす、那須野さん」

 先に遠田さんと三浦さんが出社していて、ふたりと挨拶を交わす。
 沓澤代理もすでに着席していた。意識すればするほど不自然になると分かっていたから、努めて平静に挨拶をする。

 彼は普段通りだった。
 まるで昨日はなにごともなかったとばかり、ごく平然とパソコンに向かっている。
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