ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
第4章 困惑ガール、もてあそばれる

《1》自己分析デイズ

 近頃、柚子はちみつの飴だけ減りが早い。
 ずっとこればかり舐めている気がする。

 ――あれから二ヶ月。

 彼に合わせてもらったスカーフは、あれから一度も身に着けていない。
 衣装ケースで眠りこけている、私が持っている衣服の中で一番艶やかな色をしたそれ。深い深い、赤。

『あんたは赤のほうが似合う』

 これまで誰にも、一度だって言われなかった。そんなことは。
 しばらく前に私物となったそれに、今日も私は指を伸ばせない。こんなもやもやした気持ちで触ったら、綺麗な色が途端に褪せてしまいそうで、どうにも触れられずにいる。

 この二ヶ月の間にいろいろなことが起きた。
 どれもこれも重大なできごとで、気を抜くとすぐさま現実からふるい落とされそうになる。

 会議のたびに平行線を辿っていた新店舗のスタンスは、長谷川商事の創立記念パーティーの後、間を置かずに決定した。
 常務案と若手の案、それぞれのメリットをうまく拾い上げてまとめられた意見書は、沓澤課長が仕上げたものだと聞いた。残業して資料作成を手伝ったあの日、私もちらりと目にしていたもの――直前に行われた課内ミーティングの際に求められた私の意見も、そこに含められていた。
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