ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
エピローグ
『急ぎすぎて逃げられそうになっちゃって、危ないところでした』
爽やかな笑顔でする発言ではない。
そんな糾弾は、結局声にならなかった。
全体朝礼が終わった直後、ほぼ全社員が揃っている場で、わざと零したと思われるひと言。彼のそれがもたらした効果は絶大だった。
別れの噂を頑なに信じたがる一部の人たちも、あの発言を前にしてしまっては、もう口を噤むしかなかったらしい。
付き合っているのかいないのか、そういう曖昧な憶測がやがて別れたという噂に変わり、それが今度は婚約したとかしないとか……つくづく、噂に振り回される側の立場にはなりたくない。
もっとも、噂を吹聴しているほとんどの人が、単にそれを楽しんでいるだけだとは分かっているけれど。
いつか沓澤課長が言っていた『噂自体が生ぬるい状態だから、陰口や嫌がらせを喰らう羽目になる』という理論は、あながち間違いではなかったようだ。
噂の渦中にある当人からの表明である分、今回の噂は例の〝本当なのか嘘なのか〟を楽しむものではなく、完全に事実を伝えるだけのものになっていた。これはこれで、きっと収束は早いだろう。
噂に振り回されるのは二度とごめんだ。
ふたりのうちどちらかが、早い段階で素直に自分の気持ちを相手に伝えていれば、多分ここまで拗れることはなかった。そう思うともどかしいけれど、今だからこそそう思える気もする。
隠しごとも、嘘も、私たちにはもう必要ない。
爽やかな笑顔でする発言ではない。
そんな糾弾は、結局声にならなかった。
全体朝礼が終わった直後、ほぼ全社員が揃っている場で、わざと零したと思われるひと言。彼のそれがもたらした効果は絶大だった。
別れの噂を頑なに信じたがる一部の人たちも、あの発言を前にしてしまっては、もう口を噤むしかなかったらしい。
付き合っているのかいないのか、そういう曖昧な憶測がやがて別れたという噂に変わり、それが今度は婚約したとかしないとか……つくづく、噂に振り回される側の立場にはなりたくない。
もっとも、噂を吹聴しているほとんどの人が、単にそれを楽しんでいるだけだとは分かっているけれど。
いつか沓澤課長が言っていた『噂自体が生ぬるい状態だから、陰口や嫌がらせを喰らう羽目になる』という理論は、あながち間違いではなかったようだ。
噂の渦中にある当人からの表明である分、今回の噂は例の〝本当なのか嘘なのか〟を楽しむものではなく、完全に事実を伝えるだけのものになっていた。これはこれで、きっと収束は早いだろう。
噂に振り回されるのは二度とごめんだ。
ふたりのうちどちらかが、早い段階で素直に自分の気持ちを相手に伝えていれば、多分ここまで拗れることはなかった。そう思うともどかしいけれど、今だからこそそう思える気もする。
隠しごとも、嘘も、私たちにはもう必要ない。