ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
第2章 小間使いガール、職務に勤しむ

《1》柚子にはちみつ

 午後はもう、仕事できている気がしなかった。
 ひどいミスをしてしまっていないか、就業時間が終わってから不安になった。

 いや、私の就業時間はまだ終わっていない。

 手元のクリアファイルを握り潰しそうになる。
 沓澤代理の住所が記されたメモをクリアファイルに差し込みながら、〝全部分かってますからね〟とでも言いたげに笑んでみせた社長の顔を思い出し、ぞわりと背筋が冷えた。

 社長は、一体なにをどこまでご存知なのか。
 私たちが付き合っているかもしれないという曖昧な噂を信じているのか、それがフェイクだということも知っているのか。あるいは両方とも自分の息子が仕組んだ茶番だということまで把握しているのか。判断はつかない。

 社長の、少々……いや、かなりふくよかな体型が脳裏に蘇る。
 社長と沓澤代理は、体型はもちろん、他の外見もあまり似ていない。でも、上辺の顔はなんとなく似ている。すっと目を細める薄い微笑みは、社長室で目にしたばかりだ。それに、腹の中でなにを考えているのか察しがつきにくいところもよく似ている。
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