【第13回ネット小説大賞受賞・書籍化】王太子殿下、終了のお知らせです。

断罪

アンジェリカは微かに上がってしまった口角を優雅に広げた扇子で隠し、眉尻を下げて壇上の彼らを見つめた。モリー謹製の彼らの昼食は、ハーブのブレンドが特別だった。意識を奪うことなく、近くで囁かれた言葉に素直に答えてしまう作用がある。モリー曰く、カトリーヌの要求通りに、意識を失ったり混濁したりしない様にブレンドすることに大変苦心したらしい。自分が言ってしまった言葉と周囲の反応をきちんと理解出来なければ、この状況で真実を語らせても罰にはならない。
では、ご立腹の側近たちが用意した、ラシェル殿下と不愉快な仲間たちの舞台をゆっくり楽しませてもらう事にしましょう。アンジェリカは扇子に隠した口元の笑みを深め、無頼の上の彼らに慈悲深い表情を向けた。

◇◇◇
『先を越されたな』
「裏切り者」

サイラスが耳元で微かに聞こえた声に、思わず口を開いて答えた自身の呟きにハッとした瞬間、聞き咎めたエリオット公爵に問い返された。

「裏切り者とは、クレイグの事を言っているのか?」

『自分だけ助かろうとしていると思わないか?』
「そうだ、自分だけ罪を軽くしようと僕たちを裏切った卑怯者だ」

また耳元で聞こえた声に、思わず答えてしまった言葉に顔から一気に血の気が引いていくのが分かる。自分の口から出た言葉が信じられなかった。この衆人環視の場で、裁定者のエリオット公爵に対して言って良い言葉ではなかった。

「それは、クレイグの証言を事実と認めるという事だな」

そう質されて、慌てて弁解しようとした。

『大丈夫、君にはミーガン嬢が居るじゃないか』
「そうだ、でも、どんな事だってミーガンがラシェル殿下に頼めば、いつの間にか誰かがもみ消してくれる」

またもや聞こえた声に答えて犯罪の隠蔽を口走ってしまった事を自覚して、口を開けたまま視線を泳がすと、会場は静まり返り、人々の刺すような冷たい視線が向けられている。

「…… もうよい、わかった」

エリオット公爵の呆れ返った目と投げ捨てるような言葉にがくがくと体の震えが止まらない。
続いてエリオット公爵の目がジルベールに向けられた。

「ジルベール、其方はどうだ」

問いかけに応えようとして口を開いた瞬間だった。

『サイラスには呆れたな』
「全く馬鹿な事をしてくれる。言い逃れの方法くらい幾らでもあるだろうに」

耳元で微かな声が聞こえ、それに思わず答えてしまった。答えた自分の声に間違いはない。しかしその内容が、自分の言った事とは信じられず思考が停止する。
口を衝いて出た言葉は言おうと思っていた事とは全く違っていた。

「ほう、どの様に言い逃れをするつもりだったのだ」

目を細めて見据えるエリオット公爵の視線が恐ろしく、額に脂汗が滲む。

『ラシェル殿下と王妃様のお名前は万能だものな』
「ああ、ラシェル王太子殿下と王妃様のご意向があれば、誰もがひれ伏して何でも言う事を聞くさ。口裏を合わせるなど造作もない」

耳元で微かに聞こえる言葉に、思っている事を素直に答えてしまう。

「ほう、王族の意向を笠に着て何でも思い通りに進むと思っていた訳だな」

エリオット公爵の容赦ない一言に、口にした言葉の重大さに唇が戦慄いた。

『ラシェル殿下にハンガーストライキを教えたお陰だな』
「そうだ、母上から聞いてラシェル殿下にハンガーストライキをお教えしたんだ。王妃様は食事をしない殿下を心配して俺たちを側近に戻してくれた」

耳元の声に逆らう事が出来ず、また素直に答えてしまった。

「そうか、そうやって何度遠ざけても側近に戻っていたという訳か。ラシェル王子と王妃を都合よく動かしている事は分かっていたが、確たる証拠が掴めなかったのだ。これで拷問する手間が省けた」

刺すような視線のまま、片方の口角を上げたエリオット公爵の顔をただ見つめ続けた。一面に脂汗が浮かんだ顔が蝋の様に白くなっているのが分かる。
そう言われて周囲を見渡しても近衛隊長の父の姿がどこにもない事に気付いた。父を探す様子に気付いたエリオット公爵から聞かされた事実は、ジルベールにとってあまりにも衝撃的な事だった。

「フラン侯爵家は昨夜のうちに制圧された。侯爵夫妻はバランデーヌの間者と繋がっていた事で国家反逆罪に問われて、爵位剥奪の上収監され、刑の執行を待っている」

フラン侯爵家は建国以来の重臣だったため、王家の信頼も篤く、その裏切りを知らされた時の周囲の失望と落胆は大きかった。
しかし、父母からは何も知らされていたかったジルベールにとっては正に青天の霹靂であり、頭には『何故』と、その言葉しか浮かばない。驚愕に見開いた眼をエリオット公爵から離せず、ジルベールは、もう立っているのがやっとだった。

眉を顰めてジルベールを睨みつけていたルイは、自分に父のエリオット公爵の視線が止まった事に気付いた。

「フラン侯爵家の裏切りを野放しにしておくなど、宰相として職務が怠慢過ぎませんか、父上」

挑むような視線を向けるルイにエリオット公爵は対峙した。他の二人の様に、思わず口を衝いたという様子ではない事に溜息を抑えられなかった。

「グラーシュ公女の陰謀論の次は私への批判か。フラン侯爵家はバランデーヌ派貴族の筆頭だった。それが判明してからは近くに置いて監視しておく方が都合が良かったという計画の一部だ。今回、グラーシュ公女と側近方の尽力のお陰で難なく一網打尽にする事が出来たのだ」

そう言ってグラーシュ公爵とユアン翁に挟まれて座っているアンジェリカ嬢へ目礼をした。

「いくら話題をすり替えてもお前たちの罪から民衆の目は逸らせないし言い逃れはさせない。国宝の贋作の作成はそれだけで極刑に値する重罪だ。しかもそれがグラーシュ公女に冤罪を掛ける為だったなど言語道断、悪逆が過ぎる。計画したのはお前だという事は分かっている。証拠を突き付けられる前にせめて潔く罪を認める矜持すら捨ててしまったか」

聴衆から向けられる氷のような視線が恐ろしい。

『貴方は優秀なのにもったいない』
耳元で聞こえた声に、その通りだと答えようと顔を上げて口を開こうとしたが、それを封じるように父の言葉が掛けられた。

「知恵が回る事を自負しているようだが、それを間違った方向に向けて人を貶める事を世間では悪辣というのだ。間違っても優秀などとは言わん」

『為政者には狡猾さは必要だ』
また聞こえた声に、父の言葉は綺麗ごとだと、思った言葉を口にしようと息を吸い込んだところで、父が言葉を続けた。

「策略で相手の罪を暴く事と、自分の犯した罪を擦り付ける事や、冤罪で人を陥れようとする事は全く違う。お前の計画は悪逆非道というのが相応しい」

『隠す演技は得意だろう?』
「そんな事、好青年を演じていれば皆が疑わずに信用する。今までだって誰も見抜けていなかったんだ」

耳元の声にやっと答える事ができたと思った瞬間、口にしてしまった言葉にはっと我に返り、向けられる侮蔑の籠った視線に鼓動が速まるのが分かる。
言ってしまった言葉はもう取り消せない。
体中に響く自分の心臓の音を聞きながら立ち尽くすルイに、頭を振ったエリオット公爵が呟くように告げた。

「策に溺れて周りが見えなくなってしまっているようだな。人の道を踏み外した自覚のない人間に更生の望みは薄い。心から残念だ」

そう言って背を向け、もう二度とルイに目を向ける事は無かった。

◇◇◇
エリオット公爵は、改めて壇上のアンジェリカに目を向けた。
この場では裁定を言い渡すだけのはずだった。しかし、彼らの口からは次々と通常では信じがたい言葉が飛び出してくる。言った本人たちが一番驚いている様子から察するに、操られて偽りを語らされているわけではなく、口から出た言葉は彼らの本音に間違いないのだろう。

ルイとの対峙では、息子の見苦しい姿をこれ以上目の当たりにしたくない利己心により、思わず言葉を封じてしまったが、グラーシュ公女には当然見抜かれていたのだろう。もちろんそんな小細工は公女の側近たちには許してもらえなかったようだ。止めの言葉をしっかり吐かされた。
グラーシュ公女は眉尻を下げて慈悲深い表情を浮かべて様子を眺めている。
広げて口元を覆う優雅な透かし模様のその扇子は、裁定の場でその切れ味を目の当たりにしていなければ鉄扇だなどとは夢にも思わない代物だ。

『売られた喧嘩は倍値で買うと決めていましたのよ』

そう言って笑ったグラーシュ公女と側近たちの顔を思い出した。
溜息を吐き、視線を向けた所にミーガンが小刻みに震えながら兄のサイラスを見ているのが目に入った。そうだ、まだこの小娘が残っていたな。
エリオット公爵が気を取り直してミーガンに顔を向けようとした時、グラーシュ公女の視線に気づき、目が合うと目を細めて微かに首を振られた。
子の将来のためなら仕方ない。ここでは『あばずれ』であることは伏せておくとしよう。まあ、あくまでここだけの話だが。
グラーシュ公女に目礼を返して、エリオット公爵がミーガンに声を掛けた。

「其方も一連の事件に加担していた事は明白だ。しかもグラーシュ公女を劣悪な状況で幽閉することを提案したのは其方だと報告されている」

それを聞き、目を潤ませてエリオット公爵を上目遣いで見上げたミーガンの儚げで痛々しい姿に聴衆から同情の声が上がった。ミーガンが周囲から聞こえる自分に同情する声に呼応するように、大きな目に涙をいっぱいに溜め、ふるふると震えながらその可憐な唇を開こうとしたその時だった。
不意に耳元に聞こえた声に反応してしまった。

『グラーシュ公女は何と美しい』
「なによ、あんな公女より私の方が何十倍も可愛いわ! 」

儚げで可憐な表情から一転、突然目を吊り上げて大声で言い放った。瞬間芸という言葉がぴったりの、あまりの変わりように聴衆はぽかんと眺めている。
ミーガンは喚くように言い放った自分の言った言葉が信じられないと言った風に目を見開いている。エリオット公爵は呆れたように続けた。

「確かに其方は花も恥じ入ると言われる程の評判の美貌だ。容姿に自信を持つことを悪いとは言わないが、グラーシュ公女に対しての言葉が過ぎる」

エリオット公爵からの言葉に、ミーガンがその大きな目からはらはらと真珠の様な美しい涙を零し始めると、周囲からは再び同情の雰囲気が漂い始め、その空気を察知してミーガンが再び可憐な唇を開こうとしたその時だった。
またしても耳元に聞こえた声に答えてしまった。

『素晴らしいグラーシュ公女に側近たちが心酔するのも当然だ』
「ラシェ様や皆だって私に夢中なのよ! なのにあの側近たちったら、せっかく微笑みかけてあげたこの私を無視するなんてありえないわ! 私の方がずっとずっと可愛いのに、なのにあの公女があんなに素敵な側近たちにちやほやされてるなんて絶対に許せない!」

またもや一瞬で儚さをかなぐり捨てて、涙を飛び散らしながら目を吊り上げて唾を飛ばさんばかりの形相で言い放った。再び繰り広げられた瞬間芸に、聴衆は目を瞬きながら壇上を見上げている。
ミーガンは自分が言ってしまった言葉に動揺し、固まった様に動かない。
その言葉に、エリオット公爵がアンジェリカの側に侍る側近たちを眺めながら感心したように続けた。

「確かに、パトリシア嬢とカトリーヌ嬢とメルヴィル嬢はアンジェリカ嬢に引けを取らぬ程に実に麗しい。カール殿もマルコム殿も子供のころからグラーシュ公女の影武者として女装にも耐えうる様に磨き抜かれてきたのだ。成る程、周囲が目を奪われる程の美貌である事は間違いないな」

しげしげと眺められた五人は目を泳がせて苦笑いをしている。

「しかも、彼らは皆幼い頃から常に命を狙われる中にあって、共に力を合わせて危機を掻い潜って来た強い絆があるのだ。見た目にしか取り柄の無い性悪な小娘などに目を向けるはずがなかろう」

性悪と言われたミーガンは、眉尻を下げて悲し気な顔でエリオット公爵を見上げた。美少女の悲痛な表情は通常であれば周囲の哀れを誘うはずだが、今や聴衆は固唾を呑んで見守っている。
まるで懇願するように桃色の唇を開いた瞬間、あの声が耳元で聞こえた。

『たとえどんなお姿になろうとも我々のグラーシュ公女への思慕は変わらない』
「そんな訳ないじゃない! 幽閉されてゾフィー王妃みたいにやせ衰えてバサバサの白髪になったあの女を見ればみんなが忌み嫌うに決まってるわ。あの女を想っているっていう辺境伯の令息にも見限られて、一人ぼっちで田舎の片隅で寂しく惨めな一生を送らせてやるつもりだったのに! 」

またしても一瞬で顔を歪め、喚き散らす姿は醜悪の言葉がぴったりだ。それが可憐な美少女からの変貌であればそのあまりの落差に拍車が掛かる。
三度目に披露された瞬間芸に、事の成り行きを見つめていた聴衆の中から不意に失笑が漏れた。それを合図に、皆から堪えていた嗤いが沸き起こった。
その周囲の反応に、ミーガンは真っ青になりその場に膝を突いて項垂れながらも下から掬い上げるようにアンジェリカを憎悪の顔で睨んでいる。
嗤いに包まれた会場の中、ミーガンの懲りない態度に呆れたエリオット公爵は、グラーシュ公女の後ろに控える麗人たちに問いかけた。

「だそうだが、どう思うかね」

問われた側近たちは、全員が胸に手を当てグラーシュ公女の前に出て跪いた。そしてグラーシュ公女の手を捧げ持って華やかな笑顔を向け一斉に答えた。

「たとえどのようなお姿であろうとも、私たちの想いは未来永劫変わりません」

それを見た聴衆からは、ほう、と感嘆のため息が漏れ、その溜息は歓声に替わり、会場は拍手に包まれた。エリオット公爵は聴衆と共に笑顔で拍手をしながらミーガンに近づいて行った。
一つ気になる事がある。
エリオット公爵はミーガンを立ち上がらせる風を装い、周囲からの視線を遮って歓声に紛れるように小声で問い質した。

「小娘、周囲に聞かれないよう小声で話せ。ゾフィー王妃の助け出された時の姿と、グラーシュ公女を辺境伯家の令息が想っているという話は誰から聞いた」

獲物を狙う猫の様に目を細め、低い声で問い質した。
先ほどまでの様子と明らかに違う雰囲気を悟り、びくりと体を強張らせて蒼白になったミーガンが声を出さずに囁くように答えた。

「両陛下からです。ラシェ様が婚約する前に恋人として紹介するからってこっそり王宮に呼ばれた時に聞きました。先代の責任を取る為にグラーシュ公女をラシェ様に娶わせるのは仕方ないが、嫌がっているラシェ様が不憫だから好きな子を側に置けるようにしてやりたいと言われました。マクガリー辺境伯家の令息がグラーシュ公女に懸想しているから、グラーシュ公女とは何か理由を付けて形だけの結婚にして、そこで引き受けてもらうようにすれば丸く収まる。時期を見て側妃にするまで我慢して欲しいって。その時に、ゾフィー王妃様が表舞台に一切出ないのは、幽閉で白髪の老婆の様になった姿を見せないためだって聞きました」

エリオット公爵が玉座に目を遣ると、国王と王妃は二人揃って目の前で拘束されて項垂れている彼らの息子に困惑した表情を向けている。両陛下は、前エリオット公爵から、決して周囲に相談せずに動くなと口を酸っぱくして言われていた。口うるさい叔父が居なくなった途端に、息子可愛さに根回しも相談もせずに動いたのだ。
客観的な善良と主観的な善良は大きく違う国王夫妻の場合は主観的な善良であり、自身がそう信じ込んでいる以上、その考えを覆す事は非常に困難だ。
前エリオット公爵は、とっさの判断で王太子だった甥を新国王に推したものの、前国王である父親の卑怯な内面を極端に嫌う姿に不安があった。
そして、新国王が自身の正しいと信じる善良さと正義感を否定される事に強く反発する姿を目にするようになると、それに迎合する者たちに取り込まれる事を何よりも警戒するようになったのだ。
しかし、国王の権力の前では不興を買った者は簡単に排除されてしまう。
ギリギリのバランスを取りながら助言をし続け、自身の後を託した息子の現エリオット公爵と共に根気強く取り組んできた結果が、温厚で善良、正義感溢れる国王と冷徹で容赦のない宰相という位置づけであり、何事も周囲に相談をするという約束に近い制約だった。しかしそれも新国王にとっては口煩い叔父のただの小言だと思われていただけだった。

トーラント国の議会は、アルテーヌの権利をこのまま手中にし続ける事を最重要事項としていた。その為、ラシェル王子の立太子に合わせて、国王から次期相続人がグラーシュ公爵家の公女である事を明かされた議会は、王家の思惑とも一致した事で諸手を挙げて婚約話を推し進める事にしたのだ。
グラーシュ公爵家からは、それまで明かしていなかった次期相続人の性別を、事前の相談もなく勝手に明かした王家に対して厳重な抗議があったが、当時のエリオット公爵始め重鎮たちは、婚約者となり王家の介入があった方がグラーシュ公女の安全はより強固になると思っていた。
それがいかに甘い考えだったかは、グラーシュ公爵家一門に嫌というほど思い知らされ、宰相としての怠慢だと言わざるを得ず、申し開きのしようもない。

婚約後は、バランデーヌへの対応と共に出来るだけの協力体制を敷いて来たつもりだが、助けられた事の方が圧倒的に多い。
そればかりか、モンテ国とアルザス国とのバランデーヌ割譲の協議のテーブルに着いて分かった事は、割譲にトーラント国が参入できたのは、初代の守護者と決まったアンジェリカ嬢が、トーラント国に属するグラーシュ公爵家の次期女当主に指名された事が理由だった。
協議のテーブルでは、将来アルテーヌを廻る争いが起った場合、二国間の争いになれば豊かなアルテーヌの土地は蹂躙され、分断するまで争いが続く可能性があり、それを防ぐ為には三国による三つ巴の構築が理想であると結論付いた。加えて、現状の(亡命中の王妃)という、他国からの干渉が出来ず、自国もからも手が出せない状態で独自の動きが出来る位置づけが上手く機能している事を鑑みて、持ち回りでの守護者という案で纏まったのだ。

トーラントという国が重要視されているわけではない。
もしもアンジェリカ嬢が、バランデーヌ王の孫であり王妃から生まれた正当な王女の子である事を主張して王位を勝ち取り、トーラント王国の王太子から掛けられた冤罪事件を理由に三国で攻め入れられたなら、割譲されるのはトーラント国の方だった。その場合アルテーヌの初代守護者は、ゾフィー王妃の兄であるマクガリー辺境伯家の者が、血統からも長年の尽力の功績からも相応しいだろう。
エリオット公爵は独り言ちた。

「何と迂闊な事だ。今まで目の前の事で手いっぱいで思い至らなかった。それもまた言い訳に過ぎないな。この状況は国の舵取りを誤り、小賢しい陰謀を画策したルイの父親でもある私への断罪だ」

場を取り仕切る事で自分のして来た事の結果に向き合い、自身への裁定も下せという事だ。グラーシュ公女と周囲を守る五人に目を向ける。慈悲深い采配に感謝と共に感嘆し、そして同時に頼もしい主を頂く彼らを羨ましいと思う。


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