御曹司の深い愛が双子ママの心を甘く溶かす
恋人になった夜



 ***

 ――五年前、夏。


「はあああ……」


 しっとりした洋楽が流れる店内で思わず情けない声が漏れた。けれど私の小さなため息は客同士の話し声にすぐにかき消される。

 カウンター席のテーブルに置かれたグラスの中には普段は頼まないお酒。テキーラをベースに使ったカクテルだが、アルコール度数がかなり高いので挑戦するのをためらっていたお酒でもある。

 だけど今夜はなるべく強いお酒が飲みたかった。

 私はグラスに口をつけ、まずは味見程度に一口飲む。

 ベースのテキーラは濃厚な味わいだが、レモンジュースを加えてあるのでさっぱりとした爽やかさもある。

 二口目は先ほどよりも多めに口に含んだ。

 一杯目からこのアルコール度数だとおそらくいつもよりも早く酔いそうな気がする。けれど今夜はそれでいい。嫌なことを忘れたくてここへ来たのだから。

 都会の喧騒から離れてゆったりと過ごすことができる隠れ家のようなこのバーは、誰もが入りやすい雰囲気と気軽に注文できる価格を売りにしたカジュアルバーだ。

 お酒好きの私の行きつけで、週末になると訪れている。いつもは一週間の仕事の疲れを癒やすための憩いの時間なのだが今夜は違う。

 嫌なことを忘れたくてお酒の力を借りていた。


< 13 / 162 >

この作品をシェア

pagetop