エリート弁護士は秘密の双子ごと、妻を寵愛する
4・中野家での日常
 6年前のあの日、私の境遇を気の毒に思った店長さんの手を振り払わなくてよかったと、今は思う。

 もしもあそこから逃げ出していたら――きっと自らの手でこの子達を育てることは、できなかった。

「まことくん! お馬さん、してー!」
「涼花! 危ねぇって……!」
「りょうかばっかり、ずるい。ぼくも……」
「司まで……! 2人分は、支えきれねぇぞ!?」

 床の上へ四つん這いになった青年の背中に、双子がよじ登る。
 その姿をぼんやりと眺めていた私は、慌てて彼の首筋に両手を絡ませる涼花を引き離す。

「いでで……っ。首が! 締まる!」
「こら!」
「ママ! どうして、怒るの……?」
「涼花が(まこと)くんに、酷いことをしたからだよ」
「してないもん!」

 涼花はスカートを両手で握りしめ、「りょうかは悪くないもん」と涙目でこちらを睨みつけてきた。
 元気いっぱいでわがままな妹と、青年の背中に大人しくごろんと寝そべり目を閉じる兄。
 対称的な兄妹に振り回されながらも、先程の行いを見過ごすわけにはいかずに娘を叱りつけた。
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