一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています

小春のライバル!?

 五日後――。
 あれから新とは何もない。
<俺は諦めないから>
 なんて言っていたのに。何もない方が平和で良いのだけれど。

 目の前のパソコンと睨めっこをしている時だった。

「おい。葉山さん、急に異動の辞令がきたらしいぞ。しかも他県だって。なにか不祥事でも起こしたのかな?出世コースを歩んできた人だったのに」

 そんな声が聞こえてきた。
 え、新が異動?どうして急に?瑠璃さんと結婚するって言ってたのに。

「それで婚約者と揉めて、別れたらしいぜ。あの女の人、なんて名前だっけ?なんとか瑠璃?」

 瑠璃さんと別れた?だから最近二人でいる姿を見かけないのかな。

「急に生活変わるんだもんな。しかも降格らしいから。そりゃ別れたくもなるよな」

 男性社員の会話が気になってしまう。
 新、何をしたんだろう。本人に直接聞くなんてことはしないし、他人となってしまった人だけれど、元彼だったことは変わりない。
 会社の情報を漏らす人ではなかったし、パワハラとか?
 人間性の問題だろうな。
 
 その日は問題が起きることはなく、帰宅しようと駅前を歩いていた。
 もうすぐ詩音さんの家にお泊りの日だ。
 詩音さんとは変わらず毎日連絡を取り合っている。次の土日に、彼の家に泊まりに行く約束をした。
 楽しみだな、どんな服を着て行こう。
 今まで節約してきたから、たまには洋服くらい買ってもいいよね。
 私は駅ビルの中に入っているアパレルショップを見て周ろうと、歩く方向を変えた。

 その時――。

「あれっ」

 一瞬、詩音さんに似ている人が女の人と歩いていたような気がする。
 まさか、そんなこと。見間違いだよね。今きっと彼は仕事中だ。
 
 嫌なものを見てしまったかもしれない。私が受け容れたくないような。
 本当はここで気にせずお店に入った方が良いのかも。だけど疑ったまま過ごすのなんて嫌だ。彼じゃないとしっかり確認したい。
 私は詩音さんらしき人を追うために早歩きをしながら、さっきまで彼がいた場所まで向かった。

 周囲を見渡す。
 そんなに時間が経っていないから近くにいるはずだ。
 お店の中にでも入ったのかな。右、左に顔を動かし、彼らしい人を探す。
 だけど見つからない。
 やっぱり私の思い違いだったんだ。

 ふぅと息を吐き、気分を変え、お気に入りのお店に入ろうとした時――。

 店から出てくる詩音さんと女の人が見えた。
 あれは間違いない、詩音さんだ。

 女の人は若くて背が高くて、モデルさんみたいな体型で、詩音さんの腕にしっかりと掴まっている。詩音さんも嫌がってはいない。

 まさか詩音さんの取引先の人?あんなに密着する、普通?目が離せない。
 その時この前、詩音さんの部屋で聞いてしまった会話を思い出した。
 もしかしてあの時の友達!?
 ううん、友達ではない。それ以上の関係に見える。

 周りの人からすれば彼女か妻、そんな風に思うだろう。
 私はジッと二人を見つめていた。
 詩音さん、浮気したの?
 いや、私の方がただの遊ぶ相手だったよね。あの人、綺麗だもん。
 
 それに、付き合っているって言っても<お試し>だったかもしれない。
 詩音さんは偽装でもいいなんてこと言ってくれた。
 本当の彼女じゃなかったのは私の方だ。
 だけど、涙が出てくる。
 目を擦り、これ以上見たくはない二人から目を離そうとした時、詩音さんと目が合った。

「小春さん?」

 口元が私の名前を呼んでいるのが見えた。
 どう彼と接して良いのかわからなくて、私は反対方向へ小走りする。

 とにかく今は彼と話したくない。
 詩音さんは彼女と二人なんだ。
 追ってはこないだろうけど、どこかに逃げたい。
 
 大通りから小道に入った時
「小春さん!」
 詩音さんに腕を掴まれた。
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