人魚の囁き。
ちゃぷ。ちゃぷ。ざ、ざ、ざぁー……。

白く丸い月。黒い海。

オレは小さな舟を漕ぎ出し、一人夜釣りを楽しんでいた。
夜、一人で沖に出ることはじいちゃんに禁止されていたけれど、オレだって海の男だ。
怖くなんかないし、これくらいへっちゃらなんだ。
大きな魚を釣り上げて、びっくりさせてやろう。

ふと、波間に仄白く光る海月(くらげ)揺蕩(たゆた)っているのが見えた。

──いや。それは仰向けに漂う色の白い女の人だった。
ヘソから下は海に潜っていて、目も口もぽかりと開いたままだった。水死体にしてはキレイすぎた。
気を失っているのかな? 助けないと──。
ゆっくりと女の人に舟を近づけ「かわいそうに」とひとり言をいう。
手首をつかんだ瞬間、女の眼がキロリと動き、オレを射抜いた。
ギョッとして思わず手を離したが、女の人は身をひるがえしオレの両肩をぐい。とつかんだ。
そうして口をパクパクと動かし、耳元で何かを告げると、にぃっとわらい、弾けるように海中へ潜って行った。

女の下半身は、魚のようだった。

しばらく呆然(ぼうぜん)と黒い海面を見つめていたが、ふいに女の言葉を脳が理解した、オレは急いでと岸へ漕ぎ出した。


──ジ・キ・ニ・ク・ル・ニ・ゲ・テ。

……………………………………………………………………………………


【解説】
中学生のミナトはおじいちゃんに禁じられている沖での夜釣りに出かけます。
そこで出会ったのは気絶しているのか、亡くなっているのかわからないキレイな女の人でした。
助けようと舟を女の人に近づけた途端に女の人がミナトを掴み、耳元で何かを(ささや)きます。
「ジ・キ・ニ・ク・ル・ニ・ゲ・テ」
「直に来る。逃げて」
海で「来る」となると津波です。人魚が「逃げろ」というくらいなのですから、大津波に違いありません。
ミナトは助けようとした人魚が礼をしてくれたのだと気がつき、おじいちゃんや村の皆に知らせるために夜釣りを切り上げ急いで岸へと戻っていきました。

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