完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

6. 密かに企みは進む

 そのころ。
 智也(里桜の元カレ)は、

 都内の古いマンションの一室に
 転がり込んでいた。

 ドアを閉めるなり、里美が振り向く。

 ためらいもなく、
 そのまま智也に抱きついた。

 「智也……」

 唇が重なる。
 深く、迷いのないキス。

 「いいでしょ?」

 耳元で囁く。

 「もう、我慢できない」

 智也は苦笑する。

 「……おまえ、ほんと好きだな」

 そのまま、
 二人はベッドへと消えた。

 カーテンの隙間から、
 街のネオンが、ゆっくりと揺れている。

 ベッドの上では、
 智也と里美が、
 絡み合うように寄り添っていた。

 言葉は、もう途切れがちだった。
 代わりに、
 短く、熱を帯びた吐息が、
 静かな部屋に、幾度も落ちる。

 「……っう」

 里美の指先が、
 智也の背に沿って、ゆっくりと滑る。

 その動きに合わせて、
 智也の肩が、小さく揺れた。

 二人の距離は、
 もはや測れないほど近い。

 シーツが、かすかに擦れる音。
 体温が、
 確実に上がっていく気配。

 里美は、
 智也の胸元に顔を埋め、
 何かを確かめるように、
 深く息を吸った。

 智也の指が、
 無意識に、里美の髪を掴む。

 逃がさない、と言うより、
 離れられない、という仕草だった。

 時間の感覚は、
 すでに、曖昧になっている。

 快楽は、
 波のように押し寄せては、引き、
 そのたびに、
 二人の思考を、少しずつ奪っていく。
 (ああ……)

 理性は、もう、役に立たない。
 そこにあるのは、
 欲望と、
 互いを求める衝動だけ。
 (もっと……)
 (もっと……)

 やがて、
 里美の呼吸が激しく乱れ、
 智也の動きが、ふっと止まる。

 一瞬の静寂。

 「……いっ」

 その直後、
 二人は、
 同時に、大きく息を吐いた。

 崩れるように、
 シーツの上に沈み込みながら、
 しばらく、動けずにいる。

 天井を見つめたまま、
 智也は、かすれた声で笑った。

 里美は答えない。
 ただ、満足そうに、
 智也の胸に頬を寄せる。

 そこには、
 甘さと、
 危うさと、
 後戻りできない熱だけが残っていた。

 ——この夜も、
 二人は、
 快楽に溺れたまま、
 静かに、深みに沈んでいった。

 ——時間が過ぎる。
 シーツに包まれたまま、
 里美は智也の胸に頬を寄せている。

 「ねえ」

 甘えるような声。

 「彼女に、
  あの動画の入ったUSB、
  プレゼントしたの」

 智也が、わずかに身を起こす。

 「……ああ
  レアなアイドル動画」
 「会社で見たって」
 「昼休みの暇つぶしに、
  すごく喜んでた」
 「……なんで、
  そんなものを?」

 里美は、
 何でもないことのように笑う。

 「だって、元カノ、
  あのアイドル好きでしょ?」
 「……」
 「それに」

 里美は、
 智也の顎に指をかける。

 「ちょっとくらい、
 他の女にも惚れられる、
  いい男になってほしいなって」

 意味深な笑み。

 「でも——」

 声を落とす。

 「浮気は、ぜったいダメ」

 ぎゅっと、抱きつく。

 「ずっと、
  私の智也でいてね」

 再び、キス。
 智也は、
 違和感を覚えながらも、
 その場では何も言えなかった。
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