完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

8. 犯人は神崎? 噂が牙をむく

 きっかけは、
 ほんの一言だった。

 「……神崎さん、
  昼休みに動画見てました。」

 誰かが、
 上司にそう報告した。

 悪意があったのか、
 ただの軽い告げ口だったのか。
 それは、もう関係なかった。

 噂は、一気に広がった。

 「やっぱり総務部だって」
 「神崎が原因らしいよ」
 「ウイルスまいたの、
  あいつなんじゃない?」

 昼休み。
 給湯室。
 コピー機の前。
 断片的な言葉が、
 面白おかしく繋がっていく。

 「会社のPCで動画なんて、
  非常識だよね」

 「セキュリティに甘いね」

 「PC音痴の、お綺麗さんは、困った人ね」

 いつの間にか、
 話は“確定事項”のようになっていた。

 ——犯人は、神崎。

 しかも、
 一部の女子社員が、火に油を注いだ。
 (前から目立つし)
 (男ウケいいし)
 (ちょっと痛いよね、あの人)

 嫉妬。
 (ねた)み。
 日頃の小さな不満。

 それらが、
 噂を必要以上に膨らませた。

 里桜の耳にも、当然、届く。

 「……私が?まさか。」

 笑おうとしたが、喉が少し詰まった。

 「違う……」

 確かに、
 昼休みに動画を見たことはある。
 数回だけ、ほんの短時間。

 それも——
 優希に注意されて、すぐにやめた。
 (それに)
 (ウイルス対策、
  ちゃんとしてるはずでしょ)

 頭の中が、ぐるぐるする。

 「私、潔白だから」

 誰に言うでもなく、
 そう呟いた。
 だが、噂は止まらない。

 遥斗は、少し離れたところで、
 その様子を見ていた。

 (……絶対に違う)
 (神崎さんが、
  そんなことするわけない)

 今ここで、否定すればいい。
 そう思った。
 でも——
 証拠もないまま口を挟めば、
 逆に話を大きくするだけだ。

 (ここで何か言えば、
  火に油を注ぐことになる)

 遥斗は、
 今は黙って、何事もないふりをして、
 作業に戻った。
 ただ、心の中では決めていた。

 (後で、ちゃんと里桜に伝えよう)
 (俺は、味方だって)
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