完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした

9. お礼の食事、来たのは別人

 会議室を出たあとも、
 里桜の胸の鼓動は、なかなか収まらなかった。
 (……助けてもらった)

 あの場で、自分の潔白を、
 真正面から言葉にしてくれたのは、
 白石優希だけだった。

 廊下の向こうを歩く背中を見て、
 里桜は、意を決して声をかける。

 「……白石さん」

 優希が振り返る。

 「はい?」

 相変わらず、少し間の抜けた返事。
 でも、
 さっきの会議室での姿を思い出すと、
 同じ人には見えなかった。

 「さっきは……ありがとうございました」
 「助けてくれて」

 優希は、一瞬だけ目を瞬かせてから、
 困ったように首を振る。

 「いえ」
 「本当のことを言っただけですから」

 「でも」

 里桜は、ぐっと一歩近づく。

 「私は、すごく救われました」

 少しだけ、声が柔らぐ。

 「だから……
  お礼、させてください」

 「お礼、ですか?」

 「はい」

 にこっと笑って、はっきり言った。

 「宜しければ食事、ご一緒しませんか?」

 優希は、明らかに動揺した。

 「え、いや……」
 「僕なんかと行っても、
  楽しくないと思いますし……」

 「そんなことないです」

 即答だった。

 「それに」

 少しだけ、いたずらっぽく。

 「助けてもらった側が、
  諦めないって言ってるんですから」

 優希は、しばらく考え込む。
 断る理由を探している、
 というより、
 どう返せばいいのかわからない、
 そんな顔だった。

 「……本当に、いいんですか」

 「いいです」

 里桜は、胸を張って言った。

 「今週の土曜日、どうですか?」

 優希は、少し遅れて、
 小さく頷いた。

 「……土曜日なら、大丈夫です」

 「よかった」

 里桜の表情が、ぱっと明るくなる。

 「じゃあ、決まりですね」

 そう言って、軽く手を振る。

 「連絡します、
  逃げちゃ、だめですよ?」

 「に、逃げませんから……」

 優希は、
 耳まで赤くなりながら答えた。

 その様子を見て、
 里桜は、胸の奥で小さく笑う。
 (……なんだろう)
 (この人といると、
  ちょっと楽しいかも)

 土曜日
 ただの“お礼の食事”のはずだった。
 そのときは、まだ二人とも、
 知らなかった。

 この約束が、静かに、でも確実に、
 運命の歯車を回し始めていることを。
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