薬──用法・用量を守ってお使いください。
生まれつき身体の弱い私は、開発途中の薬の効き目を試す、実験台となることで多額の入院費・投薬日を免除して貰えている。

非人道だという声もあるらしいが、仕方がない。
ウチは貧乏で私は身体が弱いのだ。
それがどうしようもない現実。
本来であれば、私の年齢なら中学校に通っている事だろう。

来世では行けるかな。学校。
お友達、たくさんできるかな。
ああ。自由になりたい──。

新しく赴任して来た先生はずいぶん優しい。
私なんかにも「可哀想に……」と気にかけてくれる。
そしてエキセントリックな薬をくれる。

頭が重いので処方された頭痛薬を飲んだ。
頭も脳も小さく軽く胡桃(くるみ)ほどになった。

うるおう目薬をさした。
少女漫画の如き黒き大きな瞳になった。

唇が乾燥して割れるので桜色のリップを塗った。
文鳥とそろいの嘴になった。

乾燥肌に保湿クリームを塗った。
満遍なく全身に塗った。
背中が裂け、羽根が生えた。

薬のおかげですっかり良い塩梅(あんばい)になった私は窓の隙間から空高く飛び立った。


……………………………………………………………………………………

【解説】
開発途中の薬の効き目を試す、実験台……いわゆるモルモットであることを受け入れている「私」。

人として扱われないのであれば、せめて鳥になって逃げて欲しいと考えたのは新しく赴任してきた医者のエゴかもしれません。
しかし束の間の自由を味わえても、籠の中の鳥は自分でエサを取る術など知りません。
それはずっと病院に閉じ込められていた患者である「私」も同じです。
気まぐれな優しさはかえって悲劇をもたらすかもしれないのです。

捕食者に狙われない内に、院内への帰還が待たれます。

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