隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜

第三章 契約恋人

「契約上の恋人とは、具体的にはどうすればいいですか?」

 本当の恋人ではないので、それなりに制約があるはずだ。
 お互いそれを踏み越えてはならない。踏み越えてしまえば、この関係は即終了。
 条件のすり合わせをしなければならない。

 幸いにもここは一戸建ての貸し切りレストラン。
 閉店まではお互いのプライバシーも守られる。
 神田さんが言っていた『密会』するにはぴったりの場所だ。

 私の問いに、彼はこう言いながら、スーツのポケットからプリントアウトされた紙を取り出し、それを私に差し出した。

「そうだな……、とりあえず、俺の健康面の管理をお願いしたい。この前倒れたところを見られているから、君には取り繕う必要はないし、医師からの指示をきちんと守っているかの監視をしてほしいんだ。こんなこと、頼める相手はほかにいなくて……」

 差し出された紙を受け取ると、そこには先日病院で血液検査を受けた結果と、病院側から注意された生活改善の内容が記されている。後者については手書きのもので、走り書きだ。もしかしたらこれは神田さんの字かもしれない。

「私は医療に関する知識がないので、この検査結果の見方がわからないんですけど、具体的に、病院でどのような指示を受けましたか?」

「貧血を指摘された。そこにヘモグロビン濃度の値が記載されているだろう? それが平均値より下回っている。ほかにも睡眠不足やら何やら言われた」

 神田さんが言うように、アルファベットの羅列の横にかっこ書きで赤血球、白血球と記されているところがあり、血液中のヘモグロビン濃度の数値が低くなっているのがわかる。
 ほかのところも、若干数値的に引っかかっているところもあるみたいだけど、私にその見方がわからない。先生からも「まだ若いから、きちんとした食生活と生活習慣を送っていれば自然に改善されるから、そこまで気にする必要はない」と言われたそうで、今回はスルーしてもいいそうだ。

「これって、貧血を改善するために、まずは食生活を見直さなきゃならないですよね。その管理を私がどうやってすれば……?」

 もしかして、一日の食事をスマホで写真を撮ってもらって報告してもらうのか?
 その上で、栄養バランスなどを指摘すればいいのだろうか。
 不思議に思っていると、なんと彼はとんでもないことを口にした。

「しばらくの間、俺と一緒にホテルで暮らしてほしい」

「は……?」

 ホテルで暮らす……?
 食事の管理をしてほしいと言いながら、ホテルの食事で栄養面の管理なんてできるわけがない。
 そう思っていると、彼も私の懸念に気づいたのだろう。言葉を続けた。
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