隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜

第六章 契約婚

 あれから数日が経った。
 私は遼さんの言った『それでも俺は、薫とのこの関係、やめたくない』という言葉に答えが出せないでいる。

 あの日、結局話はあれで終わり、私は遼さんの車で家まで送り届けられた。
 翌朝、日課にしているウォーキングも、いつもの公園に行くことができなかった。

 夕飯作りは、遼さんから朝一番で『しばらくの間出張で不在にするから、帰ってくるまでホテルには寄らなくていい』とメッセージがあり、私も『わかりました』と返してそれっきりだ。

 もしかすると、私は余計なことを口にしたのだろうか……
 遼さんは多忙で、疲労もまだ完全に取れたわけではない。
 食事面で貧血は改善されているとは思うけれど、それでもまだ圧倒的に睡眠時間は足りていないはずだ。
 目の下のクマが一時的に薄くなっていて安心したけれど、きっと私という監視の目がなくなれば、睡眠時間を削って前のように無茶をするかもしれない。

 先日までの、今日の夕飯の献立をどうしようということを考えることはなくなったけれど、それ以上に遼さんのことが気になって仕方ない。

 仕事中も、もしかしたら仕事の合間を縫ってトレーニングに来てくれるのではないかと、フィットネスの出入り口を常に気にしてしまう有り様だ。
 
 そんな私の気持ちに反して、遼さんは姿を見せることはない。
 自動ドアの扉が開くたび、私は一喜一憂する日々を過ごしていた。

 そんな様子を見かねた安田さんが、休憩時間を見計らって私に声を掛けてくれた。

「彼氏と喧嘩でもした? もしかして今、俺って付け入る隙がある?」

 冗談めかした口調で私を元気づけてくれている。
 安田さんからも、私のことを心配してくれている匂いがした。

「そんなもの、ありませんよ」

 私も冗談めかして返事をすると、安田さんはちょっと安心した表情を見せる。

「ならいいんだけど。でも何か思いつめた表情してるから、何も考えたくない時は身体を動かすといいよ。俺、トレーナーだし、見てあげるよ」
 
「いや、日頃身体を動かす習慣がないので、いきなりトレーニングなんかしたら翌日寝込むのは目に見えてますから」

「そりゃそうだ」

 いつものように冗談にして空気を和ませてくれた。

「でも、何かあったら相談に乗ることはできるから、その時はいつでも声かけて。場合によってはまた本気で口説きにかかるけど」

 安田さんはそう言うと、席を立って私のそばから離れていく。
 私はそんな安田さんの背中を見送った。

 
 その日のネットニュースで、私は神田食品ホールディングスに関する記事を見つけた。

『神田食品ホールディングス 海外事業・株主対策など多数の問題が山積みに』

 私はその記事をクリックして内容を読む。
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