隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜

第七章 伝統と未来

 社長就任パーティーも無事に終わったある日、私の職場に遼さんの秘書から、彼が会議中に倒れて病院に運ばれたと連絡が入った。
 私は病院の場所を聞くと、職場に事情を話して早退させてもらい、急いで病院へと向かった。

 病院の受付で名前を名乗り、遼さんの病室を教えてもらうと、病室の前に秘書の佐藤(さとう)さんという男性が待っていた。

「奥様、ご足労いただきありがとうございます」

「こちらこそご連絡いただきありがとうございます。それで、主人の容体は……?」

「先ほど診察していただいて、ストレスからくる頭位目眩だそうでして。後で先生から奥様に詳しいご説明があると思います。……奥様、今少しお時間を頂戴しても構よろしいでしょうか?」

 そう言って、佐藤さんは病室から離れた場所へ私を誘導する。
 どうやら遼さんには聞かれたくない話なのだろう。
 私はうなずいて、佐藤さんの後について歩くと、看護師の詰め所前にある談話室へ向かった。

「実は社長、今日の取締役会議中に倒れまして……。その時の議題が、我が社の機能性スイーツが売り上げの足を引っ張っていることに始まり、保守派が前社長の経営責任をどう取るつもりかと詰め寄ってきたのが原因かと思われます。社長ーー遼さんは先日、専務から社長に就任したばかりで、彼なりに頑張っているのですが、こればかりはどうしようもなく……」

 ここだけの話だと念を押された上で、彼の倒れた原因をそっと教えてくれた佐藤さんにお礼を告げると、この後も仕事があるからと、私と入れ替わりで病院を後にした。
 私は病室のドアをノックして、中に入ると、ベッドの上に横たわる遼さんの姿が目に映った。

「体調はどうですか? 目眩って聞きましたけど、大丈夫ですか? もっと早くに遼さんの不調に気付けていたら、こんなことにならなかったのに……。すみません」

 朝は普段通りだったから、彼の不調に気づけなかった。
 最近、疲れの匂いよりも、家庭で安らぐ安心の匂いを感じられていたから、余計にそれが悔やまれる。
 もっと早くに気づいていたら……

「どうして薫が謝る? 俺がちょっと無理しすぎただけだ。逆にこうして心配をかけてしまった俺の方だろう」
 
「そんなに無理をしているのに気づけなかった私にも責任があります」
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