隣にいる理由〜選ばれるはずのなかった私が、あなたの妻になるまで〜
エピローグ
仕事を終えた遼さんが帰宅したのは、19時を回ってからだった。
夕飯を作る段取りが終わり、手持ち無沙汰だった私は、お菓子作りに挑戦していた。
遼さんと出会ってから、契約で手料理を振る舞っていたけれど、手作りのお菓子は初めてのことだ。
甘いお菓子が好きかどうかわからない。けれど、疲労回復に甘いものを食べてもらおうと、クッキーを焼くことにした。
もし苦手だったとしても、明日、会社に持って行って職場の人に食べてもらえばいいと思った私は、スマホでレシピを検索する。
ホットケーキミックスがあったので、それを使ってクッキーを作り始めた。
生地をこねて型抜きをし、クッキングシートの上に並べると、オーブンに入れて焼く。
オーブンから、焼き菓子特有の甘いいい匂いがする。
味見していたら、夕飯が食べられなくなるな。
そんなことを思いながら、クッキーが焼き上がるのを待っていると、玄関のインターフォンが鳴った。
モニターを確認すると、遼さんがそこにいる。
私はエプロンを外して玄関へ向かった。
「おかえりなさい」
玄関のドアを開けると、遼さんの匂いがする。
それまでの疲れやストレスの匂いから、安心の匂いに変わっていた。
「ただいま……って、何これ、いい匂い」
「クッキー焼いているんです。もうすぐ焼き上がるから、食後にいただきましょう」
「本当? それは楽しみだ」
遼さんはそう言うと、鞄を私に手渡し、手を洗うために洗面所へ向かった。
私は夕飯の支度に取り掛かるためキッチンへ向かう。
食事をしながら、たくさんの話をした。
今日の重役会議では、きちんと自分の気持ちを伝えた上で、自分なりに経営改革を頑張るからこれからの神田食品を一緒に支えてほしいと頭を下げたこと。
遼さんの思いが通じて会議に参加していた人たちの承認を得られたとのことだった。
これからしばらくの間、会社の経営は大変だと思うけれど、私は私にできることをするだけだ。
ここが、遼さんの癒しの場になるよう、最善を尽くす。
食事が終わり、いつものように遼さんがコーヒーを淹れてくれる。
コーヒーと一緒に先ほど焼いたクッキーを摘まみながら、たわいない話をしていると――
「薫、遅くなったけど、これを受け取ってほしい」
そう言って、テーブルの上に置かれたのは、小さなジュエリーボックスだった。
ボックスの蓋を開けると、そこには光り輝くダイヤの指輪と一緒に、ペアリングが入っていた。
「プロポーズをした時に用意すべきものだったのに、格好つかないな。ホントごめん」
遼さんはそう言うと立ち上がり、私の隣にやって来た。
そして、ジュエリーボックスからダイヤのついた指輪を手に取り、私の左手薬指にそっとそれをはめた。その上からペアリングを指に入れる。
「順番がめちゃくちゃだけど、薫、――愛してる」
私の視界は、涙でゆがんでいる。
その涙の乱反射で、ダイヤの指輪は本来の輝き以上に光って見える。
「君のそばにいると……、疲れが、消えていく」
私は泣きながら微笑み、そっと瞼を閉じた。
遼さんが、私の唇に自分の唇を重ねる。
ああ、これでやっと私たちは本当の夫婦になれたんだ。
――選ばれるはずのなかった私が、あなたの隣にいる理由。
それは契約でも、役割でもない。
『互いに選んだ愛』という、静かな確信が、今ここにある。
夕飯を作る段取りが終わり、手持ち無沙汰だった私は、お菓子作りに挑戦していた。
遼さんと出会ってから、契約で手料理を振る舞っていたけれど、手作りのお菓子は初めてのことだ。
甘いお菓子が好きかどうかわからない。けれど、疲労回復に甘いものを食べてもらおうと、クッキーを焼くことにした。
もし苦手だったとしても、明日、会社に持って行って職場の人に食べてもらえばいいと思った私は、スマホでレシピを検索する。
ホットケーキミックスがあったので、それを使ってクッキーを作り始めた。
生地をこねて型抜きをし、クッキングシートの上に並べると、オーブンに入れて焼く。
オーブンから、焼き菓子特有の甘いいい匂いがする。
味見していたら、夕飯が食べられなくなるな。
そんなことを思いながら、クッキーが焼き上がるのを待っていると、玄関のインターフォンが鳴った。
モニターを確認すると、遼さんがそこにいる。
私はエプロンを外して玄関へ向かった。
「おかえりなさい」
玄関のドアを開けると、遼さんの匂いがする。
それまでの疲れやストレスの匂いから、安心の匂いに変わっていた。
「ただいま……って、何これ、いい匂い」
「クッキー焼いているんです。もうすぐ焼き上がるから、食後にいただきましょう」
「本当? それは楽しみだ」
遼さんはそう言うと、鞄を私に手渡し、手を洗うために洗面所へ向かった。
私は夕飯の支度に取り掛かるためキッチンへ向かう。
食事をしながら、たくさんの話をした。
今日の重役会議では、きちんと自分の気持ちを伝えた上で、自分なりに経営改革を頑張るからこれからの神田食品を一緒に支えてほしいと頭を下げたこと。
遼さんの思いが通じて会議に参加していた人たちの承認を得られたとのことだった。
これからしばらくの間、会社の経営は大変だと思うけれど、私は私にできることをするだけだ。
ここが、遼さんの癒しの場になるよう、最善を尽くす。
食事が終わり、いつものように遼さんがコーヒーを淹れてくれる。
コーヒーと一緒に先ほど焼いたクッキーを摘まみながら、たわいない話をしていると――
「薫、遅くなったけど、これを受け取ってほしい」
そう言って、テーブルの上に置かれたのは、小さなジュエリーボックスだった。
ボックスの蓋を開けると、そこには光り輝くダイヤの指輪と一緒に、ペアリングが入っていた。
「プロポーズをした時に用意すべきものだったのに、格好つかないな。ホントごめん」
遼さんはそう言うと立ち上がり、私の隣にやって来た。
そして、ジュエリーボックスからダイヤのついた指輪を手に取り、私の左手薬指にそっとそれをはめた。その上からペアリングを指に入れる。
「順番がめちゃくちゃだけど、薫、――愛してる」
私の視界は、涙でゆがんでいる。
その涙の乱反射で、ダイヤの指輪は本来の輝き以上に光って見える。
「君のそばにいると……、疲れが、消えていく」
私は泣きながら微笑み、そっと瞼を閉じた。
遼さんが、私の唇に自分の唇を重ねる。
ああ、これでやっと私たちは本当の夫婦になれたんだ。
――選ばれるはずのなかった私が、あなたの隣にいる理由。
それは契約でも、役割でもない。
『互いに選んだ愛』という、静かな確信が、今ここにある。


