お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
まずは恋人のお試しから
 私は小さな幸せを喜び、平凡な毎日を生きがいと感じている。それなのに、城高山先生と院長の言い争いに出くわしてからというもの、私の生活は穏やかではなくなった気がしていた。

 あの日から、城高山先生は用事がなくても病院の一階に降りてくるようになった。
 外来の合間、カンファレンスの前後、手術が終わったあと――
 理由をつけては、受付カウンターの前に姿を見せる。

 食事をしたあと、無言のままだったのに……翌日から声をかけられた。
 私にはその行動の意味が良く分からなかった。
 後付けのように、好みだと言われても信じられない。

 平凡な私の元に、毎日のように姿を見せに来るなんて……最初こそ戸惑いを隠せなかった。
 これまでほとんど言葉を交わしたことのない、雲の上の存在のような医師だったのだから──。

「お疲れ様です。元気にしてるか?」
「お、お疲れ様です……! 元気ですけど……、何か?」
 そう答えながらも、周囲の視線が気になる。
 心臓外科のエースとも言われる医師が、受付に頻繁に顔を出す理由など、誰もが勘ぐるだろう。
 だが城高山先生は、立場を振りかざすことはなかった。
 患者や職員が来ればすぐに一歩引き、話しかける時も短く、穏やかだ。

「これ……よろしく」
 城高山先生は書類をスッと私に差し出すと立ち去って行った。書類の上には、付箋で『勝浦さんが昼休みの時にでも話がしたい。電話して』と綺麗な文字で書かれていた。
 器量も良く、字も綺麗だなんて……神はあの人にいくつの賜物をあげるのだろうか?
 私は羨ましく思いつつ、自分は自分と言い聞かせる。
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