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羊はとても温厚で臆病者です。 群れを成して行動する習性があります。 もし群れの中の一頭がパニックになると他の羊もパニックになり、一気に逃げだします。そうなったら手がつけられません。気を付けましょう。 羊は家畜化されています。 その肉は食べられます。 その毛は織って布にできます。 死を迎える瞬間はものわかりがよく、抗ったり暴れたりしません。最期に一声、ナクだけです。 それが羊というイキモノです。 だから。 彼女はもう羊ではありません。 わかりますか? 彼女はもう、羊ではありません。 では、なんというイキモノなのか? それは教科書のどこにも載っていませんね。 でも、それでいいんです。 いいんですよ。 カノジョの物語は今、うまれるのですから。
羊はとても温厚で臆病者です。
群れを成して行動する習性があります。
もし群れの中の一頭がパニックになると他の羊もパニックになり、一気に逃げだします。そうなったら手がつけられません。気を付けましょう。
羊は家畜化されています。
その肉は食べられます。
その毛は織って布にできます。
死を迎える瞬間はものわかりがよく、抗ったり暴れたりしません。最期に一声、ナクだけです。
それが羊というイキモノです。
だから。
彼女はもう羊ではありません。
わかりますか?
彼女はもう、羊ではありません。
では、なんというイキモノなのか?
それは教科書のどこにも載っていませんね。
でも、それでいいんです。
いいんですよ。
カノジョの物語は今、うまれるのですから。
太陽が月に覆われ、地上から太陽が欠けて見えたり、あるいは全く見えなくなることを日蝕と言うらしい。 地球は太陽の周りを公転していて、月もまた地球の周りを公転している。毎日変化している月と地球と、それから太陽の位置関係のように、日々巡る彼女と僕の想いも変わらないようでいて少しずつ変わっている。 そうしてやってくる、日蝕。 それは月と地球の公転運動のタイミングがうまく合わないと見えない、不思議な現象。 太陽の光に照らされて、見せる顔と見えない表情の彼女。隠せない本音と隠したい建前の僕。 僕たちの関係はこれまで見えない何かとのトライアングルだった。 だけど、いつかはやってくる。 日蝕のように。 彼女と僕の関係を変えてしまうタイミングが。 その朔の夜、彼女と僕のあいだに、何が見えてくるだろうか。
太陽が月に覆われ、地上から太陽が欠けて見えたり、あるいは全く見えなくなることを日蝕と言うらしい。
地球は太陽の周りを公転していて、月もまた地球の周りを公転している。毎日変化している月と地球と、それから太陽の位置関係のように、日々巡る彼女と僕の想いも変わらないようでいて少しずつ変わっている。
そうしてやってくる、日蝕。
それは月と地球の公転運動のタイミングがうまく合わないと見えない、不思議な現象。
太陽の光に照らされて、見せる顔と見えない表情の彼女。隠せない本音と隠したい建前の僕。
僕たちの関係はこれまで見えない何かとのトライアングルだった。
だけど、いつかはやってくる。
日蝕のように。
彼女と僕の関係を変えてしまうタイミングが。
その朔の夜、彼女と僕のあいだに、何が見えてくるだろうか。
例えば何かひとつ、世界から失はれたとして。 それでも世界はきっと、その代わりに何かを生み落とす。 満たされた世界も幸福だけれど、欠けたモノに対してもわたしたちは愛着を持つ。そして、それを補おうと掌をかざす。 この物語がまさしくそうだ。 この物語には「ー」が存在しない。 それだけで世界はこんなにも色を変えてしまう。 それだけでこんなにも特別になる。 日常が非日常へと変わる瞬間。 その扉の前にわたしたちはいつも居る。 この物語のように。
例えば何かひとつ、世界から失はれたとして。
それでも世界はきっと、その代わりに何かを生み落とす。
満たされた世界も幸福だけれど、欠けたモノに対してもわたしたちは愛着を持つ。そして、それを補おうと掌をかざす。
この物語がまさしくそうだ。
この物語には「ー」が存在しない。
それだけで世界はこんなにも色を変えてしまう。
それだけでこんなにも特別になる。
日常が非日常へと変わる瞬間。
その扉の前にわたしたちはいつも居る。
この物語のように。
人の記憶は五感と深い関係にあるらしい。 例えば視覚。 あの頃同じ景色を眺めていた。 例えば聴覚。 あの頃同じ波の音を聴いていた。 例えば味覚。 あの頃覚えた煙草の味も。 例えば嗅覚。 あの頃から絡みつくのは煙草の匂い。 そして触覚。 ともに分かち合った痛み。 時が経ってもいつまでも色褪せないでいるのは、記憶とそれらが深く結びついているからだ。 あの頃ラッキーストライクと。 いつもそばにいた彼のこと。
人の記憶は五感と深い関係にあるらしい。
例えば視覚。
あの頃同じ景色を眺めていた。
例えば聴覚。
あの頃同じ波の音を聴いていた。
例えば味覚。
あの頃覚えた煙草の味も。
例えば嗅覚。
あの頃から絡みつくのは煙草の匂い。
そして触覚。
ともに分かち合った痛み。
時が経ってもいつまでも色褪せないでいるのは、記憶とそれらが深く結びついているからだ。
あの頃ラッキーストライクと。
いつもそばにいた彼のこと。
あと少しで夜が明けると思いながら、 ふと思うことがある。 今の自分は、 昔思い描いていた自分だろうかと。 あの頃になりたかった自分だろうかと。 少しはマシな自分だろうかと。 後悔がないと言えば嘘になる。 失った物、得た物、 それらを数えながら夜明けを待つ。 大丈夫。 悪くはないさ。 ほっとすることに怯えながらも。 それでも今日も生きていく。 そうして今日も生きていく。 こうして朝を迎えるたびに。
あと少しで夜が明けると思いながら、
ふと思うことがある。
今の自分は、
昔思い描いていた自分だろうかと。
あの頃になりたかった自分だろうかと。
少しはマシな自分だろうかと。
後悔がないと言えば嘘になる。
失った物、得た物、
それらを数えながら夜明けを待つ。
大丈夫。
悪くはないさ。
ほっとすることに怯えながらも。
それでも今日も生きていく。
そうして今日も生きていく。
こうして朝を迎えるたびに。
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