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上田千尋
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犬と貴婦人

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着なれないスーツが窮屈だ。 真新しい靴が足に食い込む。 自然、ぎくしゃくとした歩き方になってしまう。 全力ダッシュというワケにはいかない。 時間もギリだ。 こんな時、運悪く、目の前の踏切が閉まってしまった。 ユッカは腕時計を見た。 今日は大事な日なのだ。遅れてはマズい。 しかし、生来の方向音痴がたたり、どうも駅を反対側に降り、迷ってしまったらしい。 痛恨のミスだ。 まだ、電車が来る気配はない。 こんな時に限って、遅れているのだろうか。 心なしか、あたりに漂っている時間も、いつもよりゆっくりとしているように感じる。 遮断機のすぐ際に仁王立ちし、イライラとしていた。 開いたら、すぐに走らなければならない。靴のことなど忘れ、猛ダッシュに備えた。 電車が、轟音とともにようやくやって来た。 と、その時、 何か大きなものが、ユッカの背後からすべるように現れた。 そして、ユッカと同じように遮断機の前に立ち止まった。 ただならぬ気配を感じ、両脇を見てユッカは腰が抜けそうになった。 一体どこから現れたというのか。 子牛ほどもある大きな犬が二頭、ユッカを挟むように左右に立っているのだ。 まっすぐと、電車を睨んでいる。 きょうび、首輪を付けていない犬を見ることもまれだ。 しかも番犬種の、滅多に目にすることもない、大きな犬だ。 間近で見ると、その迫力に圧倒された。 手入れの行き届いたつややかな短毛が、全身を覆う。 躍動感のある盛り上がった筋肉、今しもはち切れそうだ。 口は大きく裂け、巨大な舌がダラリとたれている。 その口が、ハアハアと荒い呼吸をしている。 ここで身を翻したら、間違いなく襲われるだろう。 大型犬に、背中を向けて走るのは危険だ。 ユッカは逃げたい衝動を必死に抑えた。

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