レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~

10 凄腕の魔導師

『魔導師を捕らえよ』という父王の命令を受けて、数人の兵士がのろのろと起き上がろうとする動きを見せはじめる。
 また襲い掛かられてしまう――ノツィーリアが皇帝に腰を抱き寄せられる中、警戒感を覚えた直後。

「残念でしたあ~」

 魔導士が、片足を持ち上げてブーツの足裏全体で、どん、と床を踏み鳴らした。

「うっ!?」

 床を踏む音が鳴った次の瞬間、その場にいる兵士全員が完全に動きをとめた。何が起こったか分からないといった表情で必死に身をよじる。しかし誰もが体全体を床に縫い付けられたかのように、その場から起き上がることができなくなっている。

 男たちのうめき声と金属製の鎧がこすれる音が、部屋に充満していく。
 異様な雰囲気が漂い出す中、魔導師が緊張感の欠片もない、どこか小馬鹿にした風な口調で呟いた。

「さてさて~? どこから行きましょうかねえ。まずは~……そこかな♪」

 ユフィリアンに向かって軽快に指を打ち鳴らす。
 その仕草の意味はすぐに判明した。兵士に馬乗りになっているユフィリアンの髪と瞳の色が、それまでの金髪碧眼から燃えるような赤髪と緑目に変化したのだった。
 目を疑うような光景に、ディロフルアが悲鳴を上げる。

「ずっとだましていたのね!? このわたくしを!」

 ユフィリアンが、その問い掛けに振り向くことなく、表情も変えずに淡々と答える。
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