レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~

11 冷徹皇帝の真摯さ

 ノツィーリアは、ぎゅっと目を閉じて涙を抑え込んだ。強い決意をもって、背後に座るルジェレクス皇帝に振り向き、震える両手を膝の前に揃えてシーツに頭をつける。

「ルジェレクス皇帝陛下。この身を()()(よう)にしていただいても構いません。どうか民だけは、(あや)めないでいただけないでしょうか」
「ノツィーリア姫! そなたが頭を下げる必要はない、顔を上げてくれ!」

 驚きをにじませる大声に、ノツィーリアの方こそ驚いて素早く体を起こす。するとルジェレクス皇帝は先程までの落ち着いた態度から一変、赤い目を見開いていた。どこに触れたものかと迷う風に、両手を宙にさまよわせている。

「不安にさせてすまない! そなたに無体を働くために連れ出したわけでは決してない。シアールード、ただちにそれを片付けよ!」
「はいよ~」

 魔導師がパチンと指を鳴らした瞬間、望遠鏡状の魔道具が消え去った。
 ルジェレクス皇帝がノツィーリアを見て安心させるような笑みを浮かべて、その真意を説明する。

「複数人をまとめて飛ばす転移魔法は同じ環境である方がやりやすいと、そこの魔導師が言うのでな。寝室の内装から魔道具の設置位置まで、すべて統一しておいたのだ」
「そうだったのですね……」

 早合点だったと判明すれば、つい今し方の礼を欠いた発言に心苦しさを覚える。

「わたくしめをお助けくださったにもかかわらず、恩人を疑うような真似をしてしまい、大変申し訳ございません……!」

 ノツィーリアは再び両手を膝の前で揃えて頭を下げると、シーツに額をつけた。

「顔を上げてくれ、ノツィーリア姫。こちらこそすまない。そなたとの一晩を金で買うなどという無礼を働いてしまった」
「いえ、そんな……」

 体を起こし、ルジェレクス皇帝に向かって首を振ってみせる。
 すると今度は別方向から声を掛けられた。
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