【更新】護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
四章 偽聖女 元聖女

失われゆくもの


 はるか昔、人々の信仰心が薄れて神殿が廃され、神の加護を失ってしまったそのとき、大地に大きな次元の裂け目ができた。異界から瘴気と魔物が入り込み、大地を荒らして人々を襲い食らう。
 魔物の呼気で大気は汚れて生き物は呼吸困難に陥り、水は汚染されて草木が枯れる。空が闇に染まり、生きとし生けるものすべてを絶望の底に突き落とした。騎士たちが総力を挙げて戦うも、体は瘴気に毒されて剣は毒液で腐る。
 だれもがこの世の終わりを覚悟した。

 そんなとき勇気ある一人の乙女と四人の若者が『このまま滅亡してたまるか!』と、強い志を持って立ち上がった。
 現状を覆すために藁にも縋る思いで古文書を紐解き、信仰が失われて廃れた古代神殿の存在を知る。

 五人は魔物を倒す力を求めて古代神殿を訪ね、朽ちた神殿を清掃して真摯に神に祈りをささげる。何日も何時間もささげた末に祈りが届き、魂のきれいな乙女は聖なる力を授かり、若者たちは魔物を切る剣と神獣を従える力を与えられた。爆炎の赤鳥、雷撃の黒獅子、氷結の白豹、疾風の青狼。守護獣の誕生である。

 若者たちは神獣とともに力を尽くして魔物を滅し、乙女は聖なる力で次元の裂け目を閉じて大地を浄化した。樹木が芽吹き川には清らかな水が流れ、鳥が歌う美しい森になった。

 だが裂け目は時が経てば再び広がる危険がある。聖なる乙女は聖女として要の古代神殿で神への祈りを絶やさず、森の中にある次元の裂け目を監視をする役目を担う。三人の若者は周囲から森を監視するため守護獣とともに国を構えることになった。
 四人の若者のうち兄弟である二人は小国をまとめて帝国を作り、残る二人は王を名乗って国を立ち上げた。
 こうして死の森の中心にナンザイ王国、周囲にワノグニー帝国、エゾノリカ王国、リュウキュイ王国ができたのである。

 平和な時が流れて次元の裂け目の監視が緩み、世界を護る要であるナンザイ王国の人々が慢心したために信仰心が弱まり、聖女の力も弱まっていく。次第に次元の裂け目がじわじわ広がっていき、瘴気が漏れ出して魔物がはびこる地と化した。美しかった森は死の森と呼ばれるようになる。

 いつしか聖女の仕事は次元の裂け目の監視ではなく、国を護る結界柱を定期的に浄化する存在になり果てた。

 次元の裂け目は今もじわじわ広がっている。
< 135 / 223 >

この作品をシェア

pagetop