嘘つきと疫病神
序章 むくわれない

プロローグ

 貴方はいつも私に嘘を吐く。

 町の子供達に虐められても、殴られて蹴られてボロボロに傷ついても、貴方は笑って嘘を吐く。

『こんなの痛くも痒くもないよ』

 不器用な貴方なりの誤魔化し。自分では上手く誤魔化せているとでも思っているみたい。
 目を閉じれば、貴方のぎこちない笑顔が瞼の裏に蘇る。

 思い返せば、貴方の笑顔は何かを必死になって隠そうとしていた。
 不器用なのに隠し事ばかりして、でも不器用だから隠し切ることができない。
 そんな貴方のことを私はどうしてか愛おしいと感じる。

 身も心もずっと前に壊れてしまっていただろうに。
 貴方はいつも無理に笑って、見えない所で泣いている。

 気づいてないとでも思っているのかな。
 出会った日から気づいていたはずなのに、私はどうしてか貴方の傍にいることを拒んでしまった。
 自分のせいで貴方が傷ついていると知りたくなかった、気づきたくなかった。

 だから貴方は私が現実から目を背けられるように、目隠しをするんだ。
 
 それがどれだけ残酷で、私の心をぐちゃぐちゃに掻き乱すのか貴方は知らない。
 不器用なのに、嘘を吐いてでも這いずってでも私のことを守ろうとする。

 そんな貴方の想いを知った時、私の心はただ喜びに満たされた。
 あの頃と同じように貴方は私のことを見てくれている。そのことがどうしても嬉しかった。
 一度終わってしまったと思った時間が、また戻ってきたのだと思えたから。

 帰る場所を失った私を貴方と貴方の祖母は快く受け入れてくれた。
 写真館を営む祖母の影響か、貴方は随分と写真が好きだった。
 写真機を覗き込んで、思い出を残すためにシャッターを切る時の表情はいつも楽しげで。
 貴方が楽しんで写真を撮るから、私達も自然と笑顔になれる。
 自信満々に出来上がった写真を見せる無邪気な笑顔は、どくんと心の臓を高鳴らせた。

 この気持ちには気づかないまま流れ行く時間に身を委ねれば、もう少しだけ楽になれたかもしれない。
 でも人間の感情というものは苛立つくらい素直で、嘘で覆い隠すことができなかった。

 私は貴方に、一生報われない恋をしたのだ。
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