嘘つきと疫病神
伝えた想い
蒸気機関車の車窓から見える長閑な景色に目を向ける。青空と田んぼ、鮮やかな緑色をした田んぼは記憶の中と変わらない。
静かで平凡な田舎町の中を蒸気機関車は進み、やがて山の中を通過するために暗いトンネルの中へと滑り込んだ。
窓に若い男の顔が映る。その青年が自分であると気がついたのは、目に入って一拍置いた後だ。
十年前に故郷を離れた時の自分は、もっと幼い顔つきをしていて、窓の外を見ることすらやっとだった。少し背伸びをしないと窓の外を見られないほどに小さかった気がする。
それが、今は車内にいる乗客の中でも一際目立つほどに頭一つ大きい。窓側に座っているためそこまで目立つ訳では無いが、どうしても肩身が狭くなってしまう。
周りから視線を向けられているような気がして、気づかないふりをするために手元へ視線を落とす。
膝の上に置いた手には手紙と写真を握っている。
自分が車内で目立ってしまうのは、やはり身につけているものが関係しているだろう。
顔を覆い隠すのにちょうどいい軍帽、身体のほとんどを覆い隠す軍服。
太平洋戦争。一九四一年から一九四五年にかけて勃発した、日本の未来を大きく変えるきっかけとなる戦争。
十八歳の若者から多くの一般男子が徴集・召集された。
終戦の一九四五年までに召集された人の数、延べ七◯◯万人にものぼる。
その後の世界中の歴史に刻まれる混沌とした大きな戦争だ。
自分は光栄にもその戦争に駆り出される身になった。いつあの青空の向こう側へ行くのか分からない。もしかしたら明日かもしれない。
お国のために命を賭け、日本を少しでも有利な方へと導くために自分は戦うと誓った。
怖くないと言えば嘘になってしまうが、恐れずこの服を着ることができているのは彼女がいたから。
彼女がいるこの世界が少しでも平和になるように、彼女が少しでも笑えるような世界にするために自分は戦う。全ては彼女のため。
何を理由に戦おうが自分の勝手だろう。この戦争だって何処かの誰かの身勝手で始まったのだから、そこへ行く理由が何であれ関係のないことだ。
縁がボロボロに朽ちた写真に指先で触れる。この写真に写っている少女も自分と同じように成長しているのだろうか。
この頃は怖いほどに痩せ細っており、まともに眠れていなかったのか顔色も悪かった。それでも共に暮らしていく内に感情を表に出すことが増えて、何度も涙を流して笑うようになった。
心残りがあるとすれば、そんな彼女と共に成長できなかったことだろうか。
ずっと傍にいると約束したのに、自分から離れてしまった。それが十年前から今になっても心残りである。
しかしそんな心残りは今日で払拭できる。
蒸気機関車が田んぼが広がる田舎町から商店が立ち並ぶ町へと入った。その頃には、自分の記憶の中にある懐かしい故郷が広がっている。
駅に入り蒸気機関車が止まったのを確認すると、腰を上げて懐かしき故郷へと足を踏み入れた。
静かで平凡な田舎町の中を蒸気機関車は進み、やがて山の中を通過するために暗いトンネルの中へと滑り込んだ。
窓に若い男の顔が映る。その青年が自分であると気がついたのは、目に入って一拍置いた後だ。
十年前に故郷を離れた時の自分は、もっと幼い顔つきをしていて、窓の外を見ることすらやっとだった。少し背伸びをしないと窓の外を見られないほどに小さかった気がする。
それが、今は車内にいる乗客の中でも一際目立つほどに頭一つ大きい。窓側に座っているためそこまで目立つ訳では無いが、どうしても肩身が狭くなってしまう。
周りから視線を向けられているような気がして、気づかないふりをするために手元へ視線を落とす。
膝の上に置いた手には手紙と写真を握っている。
自分が車内で目立ってしまうのは、やはり身につけているものが関係しているだろう。
顔を覆い隠すのにちょうどいい軍帽、身体のほとんどを覆い隠す軍服。
太平洋戦争。一九四一年から一九四五年にかけて勃発した、日本の未来を大きく変えるきっかけとなる戦争。
十八歳の若者から多くの一般男子が徴集・召集された。
終戦の一九四五年までに召集された人の数、延べ七◯◯万人にものぼる。
その後の世界中の歴史に刻まれる混沌とした大きな戦争だ。
自分は光栄にもその戦争に駆り出される身になった。いつあの青空の向こう側へ行くのか分からない。もしかしたら明日かもしれない。
お国のために命を賭け、日本を少しでも有利な方へと導くために自分は戦うと誓った。
怖くないと言えば嘘になってしまうが、恐れずこの服を着ることができているのは彼女がいたから。
彼女がいるこの世界が少しでも平和になるように、彼女が少しでも笑えるような世界にするために自分は戦う。全ては彼女のため。
何を理由に戦おうが自分の勝手だろう。この戦争だって何処かの誰かの身勝手で始まったのだから、そこへ行く理由が何であれ関係のないことだ。
縁がボロボロに朽ちた写真に指先で触れる。この写真に写っている少女も自分と同じように成長しているのだろうか。
この頃は怖いほどに痩せ細っており、まともに眠れていなかったのか顔色も悪かった。それでも共に暮らしていく内に感情を表に出すことが増えて、何度も涙を流して笑うようになった。
心残りがあるとすれば、そんな彼女と共に成長できなかったことだろうか。
ずっと傍にいると約束したのに、自分から離れてしまった。それが十年前から今になっても心残りである。
しかしそんな心残りは今日で払拭できる。
蒸気機関車が田んぼが広がる田舎町から商店が立ち並ぶ町へと入った。その頃には、自分の記憶の中にある懐かしい故郷が広がっている。
駅に入り蒸気機関車が止まったのを確認すると、腰を上げて懐かしき故郷へと足を踏み入れた。