このほど、辣腕御曹司と花嫁契約いたしまして
嫉妬



陽依はいら立ちをどこに向けていいのかわからない。
幼い頃からずっと迷ったことも困ったこともなかったのに、このところすべてが思うように進まない。

ずっと前に祖父が従姉妹の真矢を鶴田家に引き取ったとき、こんな日がくるとは思ってもいなかった。
地味でおとなしい真矢は、陽依から見ればどうでもいいような存在だった。
両親を亡くしてかわいそうだとは思ったが、それだけだ。

真矢が対鶴楼の手伝いをしているのを横目に、陽依は塾やお稽古ごとに通った。
陽依が友人と遊んでいる休日にも、真矢は家に引きこもっていたのを覚えている。

「東京の大学に行きたい」

真矢がそう言いだしたとき、鶴田家にいてもいなくても変わりないのだから陽依は気にもしなかった。
だが名の通った大学に合格し、明都ホテルグループに就職したと聞いたときはさすがにうらやましくもあった。

陽依は対鶴楼の女将になるため、幼い頃から母に厳しく指導されてきた。
礼儀作法に始まって、お茶やお花のお稽古や着付けまで、一通りできるようになるまで何度やめたいと思ったことか。
陽依には生まれた時からこの道しかないのに、真矢は東京で好き勝手に生きている。
その思いは陽依の胸にしこりのように残った。



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