このほど、辣腕御曹司と花嫁契約いたしまして
再会
気になることがあると、どうしても手はおろそかになる。
父から届いたデータを確認していたのだが、どうやらキーボードをたたく手が止まっていたらしい。
森川がなにか感じているのか、チラチラこちらを見ている。
「どうかされましたか、岳さん」
「いや、大丈夫だ。このデータに目を通してくれないか」
「社長からの指示ですね」
「ああ、頼んだ」
旅館に着いたばかりなのに、桐の間に案内してくれた仲居のことを考えていたなんて口にできない。
「ちょっと席を外すよ」
気分を変えようとふらりと部屋から出た。
(鶴田真矢が、まさかこの旅館にいたとは)
ぶらりと館内を歩いていたら、土産物を置いている売店に真矢の姿があった。
作務衣姿に短い髪が清潔な、キリッとした若い男性と親し気に話している。
外国人観光客向けに、和菓子作りを見学して実際に作ってみる体験型のツアーを予定しているようだ。
なにかの参考になるかと思い、思わず申し込んでしまった。
急な申し入れに真矢は戸惑っていたようだが、和菓子職人らしい男性には好意的に受け入れてもらえた。