このほど、辣腕御曹司と花嫁契約いたしまして
急展開
岳が真矢を送ってから再び会社に戻ると、華怜がまだ部屋にいた。
急ぐ話ではないと言っていたのに、どうして待っているのか岳は不審に思った。
「やっぱり急ぐ話だったのか?」
「早かったね。もう少しゆっくりしてくるかと思ったわ」
意味深な口ぶりで、窓際に立っていた華怜が岳の方を振り向いた。
「送っただけだ」
女性をホテルに送ってきただけと言うと、華怜が口角を少し上げた。
「それだけで帰ってきたの? だって、彼女が例の相手でしょう」
どうやらそれが聞きたくて、こんな時間まで会社にいたようだ。
「鶴田って名前からピンときたのよ」
真矢は鶴田と姓をはっきり名乗ったし、岳が自分の部屋にまで呼び寄せたから勘ぐっていたのだろう。
「彼女は、例の話とはまったく関係のない人だ」
そう言いながら、岳は初めて盲点に気がついた。
真矢は長男の娘なのだから、先代社長の孫にあたる。華やかな若女将にばかり気を取られていたが、真矢も祖父のメールにあった花嫁候補なのかもしれない。
「おじい様の好みじゃないとは思ったけど、お兄さんはああいうタイプが好きよね」
「は?」
「見た目は地味だけど、芯はしっかりしている感じ。それに知的だわ」
「華怜、彼女はうちの会社に勤めていたんだ」
「そうなの?」
「対鶴楼の情報を得るには、ぴったりだろう」
真矢を華怜の思い込みに巻き込みたくなくて、つい仕事がらみの話にしてしまった。
「いやだ。まるでスパイじゃないの」
華怜はケラケラと笑いながら勝手に話を進めていく。
「でも明都ホテルグループの後継者の妻にはどうかな。チョッと線が細いかも」
「だから、彼女は関係ない」
「ほんとに?」
岳が否定しても、華怜はまだ疑っている。
「ああ」
「じゃあ、なんで会社に呼んでたの?」
真矢と会いたかっただけだと、華怜に本心を言うつもりはない。