すべてはあの花のために①
無傷じゃなあーいぃ!?
部屋に入ってすぐ扉を閉めて、そのままズルズルと扉を背に二人して座る。
「(よし、ここまで来れば大丈夫だろう)てぃきゃきゅん? きょきょまでぃぇきてぁら、でぃぁいどぅぉーぶでぃぁとおもうんでぃぁきゅぇど……」
(※訳→チカくん? ここまで来たら、大丈夫だと思うんだけど……)
もはや、どこの行がちゃんと言えてるのかわからない葵が、残り時間あと5分で着いたのは、例の煌びやかな生徒会室。
ここなら安全だろうと思うのだが、何故かチカゼはプルプルと震えていて、こちらを向こうとしてくれない。
「てぃきゃきゅん?」
「ちょ! い、いま、はなしかけんっ、ぶっ!」
最終的には噴き出してしまい、生徒会室には大きな笑い声が響く。
『ああそうか! このストッキングのせいか!』と、やっと原因がわかった葵だったが、外そうとしたらさっきよりも酷い顔になったらしく、また大爆笑し始める。どうすりゃいいんだ。
「はは! ぶっはは! ひいーひいー……」
笑い死にそうにながら、それでも「引っ張ってやる」と、仕草で手を出してくれたので、葵は頭を下げてそのままお願いすることに。
「…………」
「(ちか、くん?)」
その時ほんの一瞬、頭に何か温かいものが触れたような気がして。何故か少し、胸がきゅっと熱くなった。
すぽんっ! とようやく抜けて顔を上げると、さっきまで大爆笑していたはずのチカゼが、真剣な眼差しで葵を見ていた。
「(……な、なんだ? こちとら、久し振りにまともに見た世界は、こんなに綺麗だったかと感心してたんだぞ……?)」
見つめ返しながらそんなことを思っていると、握ったままだった手に、力が篭った。
【残り時間……あと3分】
「ち、チカくん? どうし、……っ」
気のせいか。何故か熱が灯り始めたような気がしてならない瞳に、思わず目が逸らせなくなる。
いつもと違う雰囲気。次第に、葵は呑み込まれていく。
すると、彼は両手を葵の頬に添え、そのまま自分の方へ。
「(え? ……っええ!?)」
一体、何が起こっているのか。葵はされるがままで、抵抗ができない。
いや、もう動けない。
近い距離に、大人びた表情。
そんな彼の顔を見ていられなくて、葵はぎゅっと目を瞑った。