すべてはあの花のために①
一個しかくれないんですね
その頃。生徒会室を出て行った葵はというと――?
「(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~……)」
唸っていた。家には帰らず教室の机に突っ伏して、唸っていた。
「(ああーやっぱりやってしまった! どうしてキサちゃんにあんな言い方したんだ! ドラ〇もんにお願いして何ページか遡りたい……っ!)」
どうやら、先程のことを相当悔いているようだ。
((あんたはよくやったよ。少なくとも、今の女王様は会議どころではなかったんだから))
「(そうだとしてもあんなこと言うなんて! わたしってめちゃ強設定なのに、なんでこんなに友達のこととなるとヘタレになるのおおぉ……)」
((その辺りの文句はあんたの生みの親にでも言って))
そんなことを机に突っ伏しながら考えていたので、教室に誰か入ってきたなんて気付きもしなかった。
カタンと、前の席の椅子が引かれた。顔を上げてみると、
「食うか?」
そう言って彼は大好きなゴリラのマーチを葵の前に差し出してくる。
「アキラくん……」
どうしよう。これはどうすればいいんだ?
あの、甘いものが大好きでしょうがない彼が、お菓子を人にあげるとか。
葵は受け取ろうかどうしようか迷っていた▼
「食べると、元気百倍だ」
彼は、葵が落ち込んでいると知っていたのだろう。
「(ア〇パ〇マ〇みたい……)」
理事長室の隣の部屋にある隠し扉から、わざわざこれを取ってきたのだから。ていうか、そこにあるって知ってたんだね。
「あ、ありがとう」
箱からひとつ取り出したそれには、大泣きしているゴリラがプリントしてあった。それを見て少し泣きそうになったけれど、口に入れると、チョコの甘さで気分が少しだけ紛れたような気がした。
「(もぐもぐ……)」
彼は何も言わず、ただひたすらにゴリラのマーチを食べている。
「(でも、なんでだろう)」
どうしたのか、とか。落ち込んでるのか、とか。絶対に何かは聞かれると思っていたのに、教室からは彼の食べる音しか聞こえてこない。
「(ていうか、一個しかくれないんですね)」
一個くれたのは、もしかしたら奇跡かもしれない。
でも、この沈黙は全然嫌じゃない。寧ろ居心地がよかった。
彼は食べ終わったのか、「葵は」と口を開いた。
「本当に、やさしいな」