すべてはあの花のために①

楽しもうじゃあーりませんか


「……今更、何を話すって言うんだ」


 キクは、蹴られた背中がよっぽど痛かったのか。さすりながら言う声は弱々しい。


「だからそれは!」
「チカくん」


 チカゼは、葵の鋭い声に止められる。


「(大丈夫だ。君の声はちゃんと届いてるよ。でも、わたしもこのくそヘタレ野郎に言いたいことが山ほどあるんだ!)」


 だから今度はわたしの番だから! と、メラメラ燃やした視線を送ると、何故かじと目で返されたけど。
 わかってくれたのか、はあと彼はため息を吐いて譲ってくれた。


「さあキク先生。あなたお得意のお話ですよ。存分に楽しもうじゃあーりませんか」

「いや、お前さんキャラ変わってね? なんか背後に黒い翼が見えるんですけど」

「それはわたしではなく、ヒナタくんだと思います」

「あいつにも時々見えるけどよぉ」

「それはさておき! 今はお話! しましょうっ」

「……な、なんか楽しそうですね?」

「「そうですね~!」」

「いや、このシリアスでいい〇もはやめろ。確かに終わっちゃって寂しいのはわかるけど」


「ってかお前さんたち、いつの間にそんな仲良しになったんだよ」と、そんなキクは放って置いて。葵とキクのお話は、ぬるっと始まったのだった。


「先生、わたしはあなたにとっても怒ってます。それがどうしてだか、わかりますか?」

「……オレが、変わらなかったから」

「違いますね」

「え?」

「じゃあ、何故あなたは変わらなかったんですか?」

「オレが変わっても、あいつはオレらより両親を選ぶから。それに、オレもあいつの親が大好きだから」

「では、どうして家族を選ぶと思ったんですか?」

「あいつは、両親を大事にしてるから」

「それはちゃんと彼女から聞いたんですか?」

「聞かなくてもわかる」

「……そうですか。でもわたしは、変わらなくてよかったと、心からそう思っています」


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