すべてはあの花のために①

sideキサ父



 ――18年前。


「お前んとこ、産まれたんだって?」

「ああそうなんだ! もうっ、これがめちゃくちゃ可愛いんだよ!」


 近所で仲の良かった桐生家に、男の子が産まれた。名前は杜真(とうま)くん。後にあの子の婚約者になる子だ。


「そういえば、お前んとこはいくつになったんだっけ」

「えー。あいついくつになんだろー」

「おいおい父親、しっかりしろ」

「まあほどほどにー」

「これから心配になるわ」


 このぐうたらしているが実はいい奴過ぎる朝倉家には、5つか6つぐらいになる男の子がいる。その子の名前が、(きく)


「お前んとこはまだ?」

「もうちょっとはいいかなって思ってる。オレ奥さん大好きだから」

「ハイハイ。惚気をドウモ」

「それはそうと、やっぱり無理そうなんか。お前んとこは」

「体質ってなったらこればっかりはな。できない分、お前らんとこのチビどもをこれでもかって言うくらい可愛がってやるから。そのうち、パパの顔忘れても知らないぞー」

「らっきー」
「ありがとう! 助かる!」
「ま、できたらよろしく頼むわ」
「おい! 本気で任せる気満々じゃないかっ!」


 近所で年も近かった桜庭、桐生、朝倉、柊の男共は、昔は誰かの家に集まって、よく朝まで飲み明かしていた。


 ――事が起こったのは、その一年後。


「一体どういうことだよ!」


 桐生が電話で何か話してるようだが、内容から察するにどうやら揉めているらしい。普段あまり怒らないこいつが、ここまで荒げるなんてよっぽどのことだ。


「……おい、どうしたんだ」

「……本家の女が、出産したって……」


 めでたい話とは打って変わり、彼の顔は見たこともないほどすごく悔しそうに歪んでいた。


「お前も知ってるだろう。桐生が一番嫌うのは、血が薄れることだって」

「まさか、外部に男を作ってたってことか」

「男の子だったらまだ、よかったのにって」

「……それで、本家は」

「勿論反対してる。けど本家に盾突いたこと、それから勝手にどこの誰かもわからないような男の子どもを身籠もったことが、相当頭にキてるみたいで」


 桐生家から縁を切られるのも、時間の問題だと。


「今はもう、子どもからも離されたみたいで」

「その子どもはどうするんだよ」

「……最悪の場合も、あるかもしれない」

「おいおい。本家はバカばっかりかよ!」


 だからと、こいつに当たっても仕方ない。


「……その子は今、どうしてるかわかるのか」

「病院だそうだ。未熟児みたいで、今はまだ保育器の中」

「ちょっと、うちの奥さんにも相談してみるんだけどさ。まあ、俺は譲る気ないんだけど……」


 ――その子さ、俺が育てちゃダメかな?
 てか、俺らが絶対育てる!


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