すべてはあの花のために①

正直何枚か戴きたいくらいですが!




「こうして菊ちゃんは、紀紗ちゃんのヒーローになりましたとさ!」

「わあー!(パチパチパチ)」


 その頃葵は、母――紅李(あかり)に連れられ、キサの部屋へと案内されていた。


「それから、桜庭本家とのことなんだけどね?」


 彼女の話によると、実は一方的に縁を切っただけで本家は切ったつもりはないらしく、何が何でもアカリを手放したくはないようだ。ま、キサとトーマの婚姻には乗り気らしいが。
 まあ、この人を手放したくない気持ちはよくわかります。彼女も、敵には回したくないですしね。


「成る程。では今回の奪還作戦には、桜庭と桐生。両本家を黙らせておく必要があるんですね」

「そうね。でもその辺りはこちらに任せてくれて構わないわ」


 桜庭の場合、今度はキサ母が本家に戻ることを約束にキサの婚姻を破棄させるんじゃないかと思う。彼女の言う通り、その辺りは任せよう。葵の出る幕ではなさそうだ。

 よって当日、キサの両親には、桜庭本家を抑え込んでもらうことに。


「あちらの方はどうしましょう」

「それも心配しなくて大丈夫そうよ」


 どうやらトーマの父母も、そしてトーマ自身もこの婚姻には猛反対。桐生本家が大嫌いとのこと。
 話を聞いただけだが、あちらもあちらで本家を抑え込んでもらえそうだった。この勢いだと、向こうも縁切っちゃいそうだけど。


「(じゃあ、どうしてトーマさんは今回の婚姻を拒まなかったんだろう)」

「何でも聞いていいわよ?」


 疑問を尋ねてみたら、彼女はクスッと笑った。


「女王様には逆らえなかったらしいわよ?」

「いや、本当キサちゃんは彼らに何をしたんでしょう……」


 それに、両想いのクセして「行くな」の一言も言わなかったキクに、トーマは酷くご立腹らしく。今回は、ヒーローが女王様を連れ去るところを、指差して笑いながらバカにする気満々のようで。


『俺? 俺は何もしなくてもいいでしょ。みんなが来るまで頑張って笑い堪えておくのと、登場した時に大爆笑するのが俺の仕事』


 な~んてことを言ってらっしゃるみたい。
 なんだろう。今までで一番酷いし、とんだ幼馴染みだなって思うけど、そんな人が彼女には逆らえないなんて……お、恐ろし過ぎる。


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