すべてはあの花のために①

とっもだち十人でっきるかな~




 時刻は13時半。
 店を出た葵は、ただひたすらに走った。次の目的地へ。勿論それも理由だ。しかしそれだけではない。


「(あ、悪魔が! 悪魔があああ……っ!)」


 言い逃げしようと思った葵を、問答無用で猛追撃しようとしている眼鏡男子がいたからだ。
 もしかしたら、お金払ってないからそのことで怒ってるのかも……的なことを考えながらも、真顔で追いかけてくる彼が尋常ではないほど怖いので、追いつかれまいとただ必死。


「(というか、本当に時間がないー!)」


 葵は走りながら、必死に駅へと案内してくれる看板を見つけては、そちらの方へと体を捻り全力疾走。流石に体力の限界を感じ始めた葵が後ろを振り返ると、彼の姿はなくなっていた。どうやら無事に撒いたらしい。


 ほっと一安心していたら、あっという間に駅へ到着。早速、切符売り場に向かう。


「お嬢さん。どちらまで行かれるんですか」

「えっと、山奥の小さな田舎町なんですけ……」


 あれっと思って横を見上げた葵は、それはそれは一気に青ざめた。


「そんなとこに、何の用事があるのかな?」


 そこに、先回りしたらしい悪魔さん――改め魔王様、降臨。
 思わず逃げ出そうとした葵の肩に、ギリギリと彼の指が食い込む。どうやらもう、逃げられそうにない。


「(やばい。これはやばいぞあおい! 魔王様がとってもお怒りだっ!)」


 座ってたから気付かなかったけど、高身長から見下ろされたら、威圧感が半端ない。

 取り敢えず、目は合わせずにしばらくはやり過ごそうとした。


「ほら。何してるの。行くよ」

「え?」


 けれど、何故か彼は切符を買ってくれた。……おう、また奢らせてしまったじゃないか。


「あ、あのトーマさん、お金」

「時間ないんでしょ。さっさと行くよ」

「……は、ハイ……」


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