すべてはあの花のために①

わたしの予想がそう言って聞かないので




 自分の行動で、もしかしたら誰かを傷付けてしまうかもしれない。


「(つ、ついに来てしまった。……それでもわたしは、あなたにも前に進んで欲しい)」


 意を決した葵は、強めに呼び鈴を鳴らした。すると聞こえたのは、凛とした彼女と似た声。

 固唾をのんで、その扉が開くのを待つ。
 がちゃっと開けられたその向こうから現れたのは、彼女の面影を持つやさしそうな女性。


「……どちらさまかしら?」


 こんな場所に、若い男女が訪れてくることなんて滅多にないのだろう。少し驚いている彼女の前へ、トーマは一歩前に出た。


「お忙しいところ申し訳ありません。俺は、桐生杜真と言います。……その、はじめまして」


 彼女は、『桐生』という言葉に酷く敏感に反応した。
 それはそうだろう。彼女は、そこから追い出された身。そしてキサの……本当の母親なのだから。


 追い返されると覚悟していた。
 それでも、彼女が返したのは苦笑いだけだった。


「す、すみません。すぐに帰りますので、ほんの少しだけ。お時間宜しいでしょうか……?」


 葵の切羽詰まったような声に驚いたのか。彼女は少しだけ、目を見開いていた。


「ふふっ。いいわね! 是非上がって頂戴!」

「(……あれ?)」


 しかし、思ったものと全然違った反応が返ってきたので思わず目が点に。隣のトーマを見上げると、彼も状況について行けないのか、首を傾げていた。

 どうしてだろうと首を捻っている間もなく、「早く早くっ」と嬉しそうに案内されてしまったので、取り敢えずお邪魔させてもらうことに。


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