すべてはあの花のために①

sideキク




「おいおい、本番明日だぞ。こんな夜遅くに、逢引する相手間違ってんじゃねーの」


 時刻が22時を回った頃。トーマに呼び出され、ある駅のホームへと足を運ぶ。


「俺さ、お前に謝らないといけないことがあって」


 どうやら彼にとっては、ツッコミを忘れてしまうほどの深刻な内容のよう。彼女が一緒に観光に行こうとしなかった理由に、大体の見当はつけていたが。


「……菊。今まで黙っててごめんな」


 ――まさかあいつは、こいつまで動かしたのか。


「(いやー、ここまで来ると末恐ろしいな)」


 本当、お前さんが敵じゃなくて心底よかったよ。


「おお。なんだー? 言ってみろー」


 それなら、軽い調子で言いやすい空気をわざと作ってやろう。……だってオレは。


「俺、紀紗が好きだったんだ」

「知ってる」


 お前の気持ちを、最初から知っていたんだから。


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