すべてはあの花のために①

それでは、満を持して




 そしてとうとう、そのまま新郎控え室に着いてしまいました。


「やっと着きました! ……よっこいしょっ。ふ~っ!」


 トーマはというと、いくら言っても下ろしてもらえず、抵抗してもビクともしなかったので、もう早い段階で諦めるしかなかったようです。下ろされるや否や、トーマはお姉さん座りになって、シクシクと自分の顔を両手で押さえて泣きました。


((可哀想に。プライドが壊れた後に、人格も崩壊し始めるとは))

「ええっ!? ど、どうしたんですかトーマさん! お腹痛いですか!? 病院行きますか?!」

「俺は今傷心中なのでほっといてください……」

「……?」


 平気でお姫様抱っこをして走るくらいですからね。男のプライドなんか知らない葵は、しばらくの間首を捻り続けました。


「……ていうかさ、どうして段取りと違うわけ」

「それはですね、わたしがあんなことを言ってしまった手前、トーマさんに確認を取らねばと思いまして。なので、ちょっと二人にさせて欲しいとお願いしたんです!」


 まるで、『そんなことのために俺はプライドがズタズタになったのか』と言いたげに、トーマはガックリと項垂れた。


「……やっぱり、体調よろしくないですか……?」

「うんそうだね。さっきまでは最高潮によかったのに、今急激に心が痛くなった」

「??」


 やっぱり葵はよくわからなかった。


「……はあ。それで? それが聞きたいがために、俺をお姫様抱っこして連れ出したと、そういうことですか」

「そういうことです! それでそれで、ちゃんと言えたんですか?」

「はああああー……」

「……あ、あれ?」


 今までで一番、大きくて長いため息だった。


「す、すみません。カナデくんをお姫様抱っこした時は、眠ってたし起こさないようにしなくちゃいけなくて。……ついついはしゃいで走り回って、わたしばっかり楽しんでしまいました」


 トーマの不機嫌な原因がそれにあると思った葵は、深く反省します。
 もちろん見当違いもいいところなので、ここでトーマさん、反撃に出ます。


「葵ちゃん」

「……はい、なんでしょう」

「俺に君の初めてを下さい」

「……はい?」


 どうやら、お姫様抱っこをされたのはもちろん、それが二番煎じだったことも彼は嫌だったようですね。


「は、はじめて、ですか……?」

「そう。葵ちゃんが今までしたことがなくて、されたら嬉しいこと。それを俺にしてくれたら教えてあげる」

「え?!」

「ほらほら早く。時間なくなっちゃうよ」

「……ほ、本当にやるんですか?」

「葵ちゃんが知りたくないなら、しなくても別にいいけど?」

「~〜っ。わ、わかりましたっ! それでは、満を持して。やらせていただきます!」

「待ってました」


< 219 / 254 >

この作品をシェア

pagetop