すべてはあの花のために①
それでは、満を持して
そしてとうとう、そのまま新郎控え室に着いてしまいました。
「やっと着きました! ……よっこいしょっ。ふ~っ!」
トーマはというと、いくら言っても下ろしてもらえず、抵抗してもビクともしなかったので、もう早い段階で諦めるしかなかったようです。下ろされるや否や、トーマはお姉さん座りになって、シクシクと自分の顔を両手で押さえて泣きました。
((可哀想に。プライドが壊れた後に、人格も崩壊し始めるとは))
「ええっ!? ど、どうしたんですかトーマさん! お腹痛いですか!? 病院行きますか?!」
「俺は今傷心中なのでほっといてください……」
「……?」
平気でお姫様抱っこをして走るくらいですからね。男のプライドなんか知らない葵は、しばらくの間首を捻り続けました。
「……ていうかさ、どうして段取りと違うわけ」
「それはですね、わたしがあんなことを言ってしまった手前、トーマさんに確認を取らねばと思いまして。なので、ちょっと二人にさせて欲しいとお願いしたんです!」
まるで、『そんなことのために俺はプライドがズタズタになったのか』と言いたげに、トーマはガックリと項垂れた。
「……やっぱり、体調よろしくないですか……?」
「うんそうだね。さっきまでは最高潮によかったのに、今急激に心が痛くなった」
「??」
やっぱり葵はよくわからなかった。
「……はあ。それで? それが聞きたいがために、俺をお姫様抱っこして連れ出したと、そういうことですか」
「そういうことです! それでそれで、ちゃんと言えたんですか?」
「はああああー……」
「……あ、あれ?」
今までで一番、大きくて長いため息だった。
「す、すみません。カナデくんをお姫様抱っこした時は、眠ってたし起こさないようにしなくちゃいけなくて。……ついついはしゃいで走り回って、わたしばっかり楽しんでしまいました」
トーマの不機嫌な原因がそれにあると思った葵は、深く反省します。
もちろん見当違いもいいところなので、ここでトーマさん、反撃に出ます。
「葵ちゃん」
「……はい、なんでしょう」
「俺に君の初めてを下さい」
「……はい?」
どうやら、お姫様抱っこをされたのはもちろん、それが二番煎じだったことも彼は嫌だったようですね。
「は、はじめて、ですか……?」
「そう。葵ちゃんが今までしたことがなくて、されたら嬉しいこと。それを俺にしてくれたら教えてあげる」
「え?!」
「ほらほら早く。時間なくなっちゃうよ」
「……ほ、本当にやるんですか?」
「葵ちゃんが知りたくないなら、しなくても別にいいけど?」
「~〜っ。わ、わかりましたっ! それでは、満を持して。やらせていただきます!」
「待ってました」