すべてはあの花のために①

――そこまでよ!




『――。――――、さ――のお――――ろ?』

『――』


 少し遠いところで撮影されたものなのか。音声は、ハッキリとは聞こえない。


『――や――さ、言って、ことわかん――?』

『――……?』

『あのな、――ら無事に帰して欲し――よお、有りが――寄――って言っ――』

『――…………?』


 だが映像を見るからに、とっても可愛い少年が、不良のお兄さんたちに絡まれているように見える。


『おい! ――言えや――――ア!!』

『――!』



「(……ん? ちょっと待って? この感じどっかで……)」


 どこかで見覚えのある風景に、葵の背中から冷や汗がつーっと流れ落ちた。



『――そこまでよ!』

「(――?!)」


 突如発せられた大きな声。そして何より誰より聞き慣れた声。
 今までほとんど聞こえなかったのに、何故こうもバッチリ残っているんだろう。


「(嗚呼、自分を呪いたい……っ)」



『ああ? なんだーお前』

『どこの誰かは知らないけど、お嬢さんは知らないのかねえー』

『この辺、あんま女の子一人で歩いてると危ないってウ・ワ・サ?』


 ゲラゲラと品のない笑い声がする。
 それでもびくともしない女に痺れを切らしたのか、不良の一人が近づいてきて。


『お? こいつなかなかの上玉じゃねえか。しょうがねえなあ。じゃあオレが可愛がってやろうじゃねえの』


 下心しかない汚らしい手で、その女に手を伸ばした。



 ……が。


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