すべてはあの花のために①

sideキサ




 ――新婦控え室。


「(それにしても、さっきの何だったんだろう。サプライズだろうけど、あたしよりちっさい子が杜真を担いでいくなんて……それを言えば、ヒーローも小さかったけど)」


 スタッフに控え室まで連れてきてもらったキサは、一人首を傾げていた。


「(……ま、いっか。ちょっと懐かしくて楽しかった!)じゃあ着替えますね。ありがとうございました」


 スタッフの男性に礼を言ったものの、その人は全く出て行く気配がない。声は聞こえてはいるはずだ。


「あの~すみません。今から着替えたいんですけど……」

「あなたの着替えはそちらではありません」


 そう言って彼が出したのは、辞めた学校の制服。
 加えてこの声を、聞き間違えるわけがない。


「ほ〜ら〜もたもたすんな。帰るぞー」

「き、……菊ちゃん?」


 なんで変装してるのか。どうしてスタッフの恰好でここに来ているのか。わからないことだらけで。


「な、なんで……」

「そりゃお前、迎えに来てやったに決まってんだろーが」

「いやいやいや! あたし帰れないよ!」

「帰れないんじゃなくて帰るんだよ」

「だっ、だから、帰っちゃダメなんだって! あたしは絶対譲らないし……変わらないから!」

「……変わんな」


 ふっと真面目な雰囲気に変わったと思ったら、何の抵抗もできないまま、ぐっと抱き寄せられてしまった。


「(え。な、何これ。どういうこと……?)」


 抱き締められたキサは頑張って押し返そうとするが、その度に力を強められ、身動きが取れなくなる。


「は、はなして」

「できない相談だ」

「はなせ」

「……無理。それだけはできない」


 彼の腕は、少し震えてるような気がした。


「で、でも早く着替えないと、式に遅れちゃうから」

「式はもう、あいつらが出た時点でぶっ壊されてるんだよ」

「え? い、一体どういうことなのか説明を」

「いいから、ちょっと黙って」


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