すべてはあの花のために①
sideトーマ
――披露宴会場。
「(さて。さっさと終わらせますか)」
トーマはそのままの恰好で一人、堂々と会場の扉へ。スタッフには怪訝な表情をされたけれど、「これでいいんです」と断って、中に入れてもらった。
騒ぎを聞きつけたのか、それとも一人で帰ってきたこの状況に全てを察したのか。桐生本家ご当主は、怒りを露わにこちらへと近付いてくる。
「杜真。これはどういうことか説明しなさい」
「そうですね。……説明をするなら、『女王様は無事、ヒーローによって助け出されましたとさ。めでたしめでたし』と言ったところでしょうか」
「私は何故! このような状況になったのかと聞いているんだ!」
やれやれ。どうやら大層ご立腹のようだ。
「何故と言われましても。双方の意思関係なく、勝手に事を進ませた桐生と桜庭の両本家に非があるのでは?」
それを合図に、新郎新婦だった二人の両親が立ち上がる。
「今回のことは、当事者同士でしっかり話し合った結果、婚約を解消させていただく運びとなりました」
キサの母の言葉が、会場中に強く響き渡る。
「ど、どういうことだっ……!」
「そのままの意味ですわ、伯父様」
会場全体が、一気にざわざわと響めき始める。
「こ、このままで済むとでも……!」
「――お言葉ですが」
そして彼女の放った言葉に、会場は一気に静まり返った。
「あの子を脅してまで、あたしたちから離そうだなんて、よくもやってくれましたね伯父様。こちらはもう我慢の限界なんです。そもそもあたしは、桜庭なんて本当に最初っから大っ嫌いだったので。これを機に縁を切らせていただきます。あ~これでようやく解放されます」
「だから!」と、彼女はさらに続けた。
「あの子が! あたしたちの家の敷居を跨ごうと! 何だろうと! あなた方には一切関係がないはずですので! 金輪際あたしたち家族に関わって来ないでください! 来ようものなら、それ相応の対応を取らざるを得ませんので。おわかりいただけましたか!?」
マイク越しでの大きい声に、耳がキーンと鳴る。
言い切った彼女の顔はとてもスッキリしていた。
そして、桜庭本家の当主であろう中年の男は、すっかり青ざめていた。
「(ここまで怒らせたんだ。身内と言えど、もうあんたらは彼女の敵も同然だよ)」
この人だけは絶対に敵に回さない方がよかったのに。ま、もう後の祭りだけど。