すべてはあの花のために①

そこでどうぞごゆっくり



 帰りの新幹線。通りかかった売り子さんにお願いし、疲れて眠っている生徒会のみんなにブランケットを掛けて。その足で見回りに一年生のところへ出向いた後、葵は初めてかける電話番号を押した。

 呼び出し音は、二回鳴り切る前に途切れた。


『もしもし?』

「あ! もしもし? わたし! 今帰ってるから、あと二時間ぐらいでそっちには着くんじゃないかと思う!」

『そっか。無事に帰って来られたんだね』


『着いたら迎えに行こうか?』というやさしい提案には、気持ちだけ受け取っておく。


「一回学校行きたいからさ。……だから、家に帰るのは少し遅くなる」

『わかった。今日は全員(、、)いるから、あまり遅くならないようにね』


 それなら寄らずに帰った方がいいかもしれない。
 そんな葵の不安を察してか、シントはすかさず『大丈夫だよ』と声をかけてくれる。


『行事だって知ってるんだから。それくらいの融通はきかしてもらわないと。そんなことより……葵?』

「……なに?」

『何かあった?』


 やはり彼には、すぐに見破られてしまうみたいだ。


『顔見なくてもわかるよ。また、無理し過ぎたんでしょ』

「……うん」

『でも、もう無理するって決めたんでしょ?』

「うん」

『それが彼らを苦しめることになっても?』


 一瞬言葉に詰まる。
 その詰まった不安を胃まで落とし込んで、何とか「うん」と返した。


『葵がそれでいいなら俺は何も言わないよ』

「……ありがとう」

『だから、今は無事に家まで帰っておいで』

「っ、うんっ」

『じゃ、また連絡待ってるね』

「うんっ。じゃあね」


 通話終了のボタンを押し、ふうと息を吐く。


「(……やっぱりシントには嘘はつけないな)」


 そう思いながら、葵は窓から流れるように移り変わる景色を眺めていた。思い出すのは、女王様奪還。そして、九人目のお友達。


「……また、会えるかな」

「どうした。惚れたか?」


 まさか、独り言に返事が返って来ようとは。


「……起きていらっしゃったんですか、先生」

「いーや寝てた。だから、お前さんが毛布掛けてくれたなんてオレは知らない」


 やっぱり起きてたんじゃないか。


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