すべてはあの花のために①
二章 第一歩
……じゅるっ
「それじゃあ、道明寺さんも入ってくれることになったわけだし、ここで改めて自己紹介しよっか」
そう切り出したのは葵以外で唯一の女子、桜庭さん。
「桜庭 紀紗、高2。趣味はネイルと、んー時々チカをいじって遊ぶことかな?」
……なんかいろいろぶっ込んできましたが。
胸下まで伸びたゆるふわの髪は、ブラウンに少し金色が見え隠れ。前髪をセンター分けしているおかげで、可愛らしい顔立ちがハッキリ見える。葵より少し高い位置にある意志の強そうな瞳が、とても印象的だ。
「(あ、かわいい……)」
ふと、興味を惹かれた彼女の左手中指に光る、桜色のリング。
一年も同じクラスだったというのに今の今まで、凛々しめな彼女の可愛い一面を知らなかったとは。少しばかり損していた気分だ。
「おい、いじるってどういうことだよ!」
「えー? そのまんまの意味だけどー? ああ、こいつがさっき言ってた 柊 千風、高1。少し喧嘩っ早いところもあるけど、全然悪い奴じゃないから~」
続いてキサにそう説明された彼の名はチカゼ。
ふんわりとしたベージュブラウンの髪は、横側が編み込まれており、そこから覗く左耳には、小ぶりだけど存在を主張させるライトグリーンのピアス。
「(自分でやったのかな。だとしたら手先が器用なんだな)」
背は、きっと悩んでいるのだろう。キサより僅かに大きい程度。
ブレザーの中にグレーのパーカーを着込んでいるオシャレさんで、口元から見える八重歯が少年らしさを感じさせると同時、可愛らしい印象になる。
「はあ? なんだよその雑な説明は! もっと言うことあるだろ!」
「え? ……あったっけ日向」
「チビでツンデレでウブで短気で救いようのないバカぐらいじゃない」
「はあ? おいヒナタ! なんて言った今!」
「はあ? はこっちの台詞なんですけど? 自己紹介で日が暮れるんですけど? 後まだまだつっかえてるんですけど? 文句あります?」
「……ありませんっ」
……うん。扱い方は、なんとなくわかった。
「はあ。 ……九条 日向、悲しいことにチカと同じ高1。ま、これからいろいろ覚悟しといてね下僕」
おいー! 明らかさっきの引き摺ってるじゃん!
雑用係から下僕まで、すっかり扱いが落っこちたんだけどっ。
そんなふうに敵意剥き出しで話したのは九条弟。
「(しばらく君は、弟で十分じゃーいっ!)」
とは言うものの。奴はその内面に反し、めっちゃくちゃの美少年。大きな声では言えないが、下手したら女の子に見間違えてしまう人も中にはいるかも。いや、よく見たらちゃんと男の子なんだけど。
背はそこまで大きいわけではなく大体160後半か。今からまだ伸びていきそうだ。
「(……にしても)」
小さい頭にさらふわの後ろを少し刈り上げたオレンジ色の髪が、憎たらしいほどよく似合っている。それに、長めの前髪から覗く瞳は、美少年のくせしてとても大人っぽかった。
「おい! 悲しいってどういう――」
「何?」
「い、いえ! なんでもありません……っ!」
さっきからチカゼが酷い目に遭ってるよー!
ツンデレ要素あんまり出さないまま、消えかかってるからっ!