すべてはあの花のために①

sideミノル




 ――生徒たちが出ていった理事長室。


「……ミノルさん。あんた今、何考えてるんだ」


 残ったキクは、理事長にそう問いかける。


「子どもが巣立っていくって、こんな感じなのかな~って。……思っていただけだよ朝倉先生?」


 おちゃらけてそう答える理事長の顔は、ピクリとも笑っていない。
 いいや、笑えなかったんだ。


「オレらだけなんだ。その呼び方はやめてくれ、気持ち悪い」

「……悪い、菊」


 理事長の顔は、本当に申し訳なさそうだ。
 キクは心配そうに見つめるが、それ以上言う気がないのか。理事長は苦しそうな顔をしながら口を噤んでいる。

 そんな理事長と同じように顔を歪ませたあと、キクはため息をついて理事長室をあとにした。



「もう、…………っ。もう」


 キクが出て行った理事長室からは――――



「……っ、時間が、ないんだ……っ」


 誰かの悲痛な声が、涙とともに冷たい床に消えていった。




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